5月24日(月)ポカラ。晴れ。
興奮して目が覚める。7時半。
昨日の夜書き出したそれぞれのタスク表をとりだし確認する。
心なしか二人とも顔が引き締まっている。
今日で最後。
明日は朝早いバスでカトマンズへ戻るのだ。そしてその翌日は飛行機に乗るのだ。

いつもの場所、タラの店の3軒隣、Cilly Bar、いつもの席へ。
何も言わず各自の作業が始まる。昨日、一昨日とだいたい同じ。
勇輝はまずPCの電源を確保しワイファイ接続。
私は雑貨屋でもらってきたダンボールに封筒の束、文房具を取り出し、
セロテープをたくさん小さく切って椅子の手すりに貼りつけておく。
時間がない中での多種多様な作業、自然に各々の得手不得手により分担ができていった。
東京では気づかなかった、お互いの持ついろんな能力。
この発見は今後の人生で役立つかもしれないな・・


10時近くなって、タラの店が開いた。
みんなに挨拶をして、キープしている在庫商品をカフェのほうに運び込む。
ここのところずっとそうだから、店員も笑顔で見守ってくれてる。
私は黙々とひたすら梱包。
きちんと、丁寧に。言い聞かせながら進めるんだけど
マジックで書きつける文字が安定しない。
喜びと感謝と幸せと、間に合うかな急がなきゃというドキドキと、明日はここにいない寂しさと、
心の中でいろんなものが膨らんでぶつかってはじけて、せわしなかったから。


勇輝は集計、在庫確認、各種リスト作り、メール返信、ATMでお金の引き落とし、
昼すぎに郵便局へ行く準備完了。
「よっしゃあ!間に合った」
在庫がある人の分の梱包がちょうどすべて終わった。
勇輝に託す。 あとは、ここに残していく分の準備。
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(郵便局に出る勇輝が撮った私。ピースださっ。オフィスと化しているカフェの席)

ピンクふんわりバッグ、斜めがけ赤バッグ、くたっとボストンバッグは、
布が完全になくなって、今布を織るところからやっている。
ざくざく手編みくつしたは、毛糸を染めるところからだ。
これらはまだ送れないので、タラに託して出来たものから送ってもらう。
発送作業を残していくのは忍びないけれど、
せめて、私たちができることはすべてやっていきたい。
送り先1人1人に封筒をつくり、在庫のある商品を詰め、宛名を書き、
何が入っていてあと何を入れるのかが分かる札を貼り付けていく。
封筒の中には、足りない商品の数だけビニール袋を入れ、
イラストとともに何を入れてほしいか書いていった。
手元用のリストもつくり、そこに商品の写真を現像して貼り付け、番号をふり、
誰、何、数、色・形が一目瞭然になる資料も作っておく。

店とカフェを何度か往復する。
カフェに戻ろうとしたら、作業場から出てきたタラが嬉しそうに
「MIWA!またさっきあのカメラ売ってって言われたのよ!」と。
新商品・カメラストラップのディスプレイ用に、
作業場にあったハギレを勝手にひっぱり出して
何日かかけてちくちく縫ったカメラのことだ。
せっかく作ったストラップが、そのままだとベルトだか何だか分からないと思って。
さっそく店頭に置いてから、毎日数人からこのカメラがほしいって言われるのだと。
ストラップも少しづつ売れている。
めっちゃ嬉しい。作ってよかった。

作ったカメラがこれ。
首かけの長いタイプ用と短いタイプ用に2つ。
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「タラ、10万ルピー出すって人が現れたら売ろう。笑」
「絶対売らないわよー!」
ふたりとも忙しい中での笑顔の会話。
タラと離れたくない、と思っている自分に気づく。

郵便局から勇輝が帰ってきた。
3度目ともなると慣れたもんだろう、と思っていたのにずいぶん遅かった。
公務員の彼らにテキパキ働いてもらうために、 なだめたり笑わせたり
一緒に焼きそば食べたりジュースおごったり、
なんだかんだ大変で、最後は友達になって帰ってきたようだ。
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たくさんの人との心の交流があったからか、勇輝は充実した顔で帰ってきた。

5時。
目標の3時を2時間もすぎてしまったが
やっとすべての梱包と資料と心の準備が整った。
カフェのスタッフにお礼を言って荷物をまとめ、タラのもとへ向かう。

まずは、引継ぎ。
お願いする未発送分について詳しく説明する。
熱心に耳を傾けてくれるのは、タラに加え、2日前に現れた心強いサポーター、
アメリカからタラのもとへ1ヶ月間のボランティアでやって来た21歳の学生、レイチェルだ。
1を聞いて10を知る、優秀な彼女。質問も的確だ。
すべて、タラとレイチェルのダブルチェックで進めてくれることになった。
私が一番気にしていたのが商品のクオリティチェック。これは、いくつかの商品を例に使って、
縫い目を見せ、どのレベルでなくてはいけないか、懸命に説明した。
どうしても、女性たちの器用さや経験によって差が出てしまう。
でも、少し厳しい要望になってしまったが、プロとして高いレベルを目指すことの大切さ、
レベルに合わなければ何度でもやり直すことも教育につながると思うことを伝えた。
タラは、「それは一番大事なことだわ」と真剣に頷いてくれ、
レイチェルは「任せて。ダメなら堂々とやり直し!と言うから。私がボス!」と笑わせてくれた。

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続けて、ホームページのリニューアルを考えているレイチェルに、
勇輝から、将来ホールセールにつなげていくためのアイデアを話す。
かなり熱い、建設的な議論になっているようだ(聞き取れない)。

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私はタラに、個々の袋につけた表と中の袋の説明を。1つ1つ見せながら。

もう1つの引継ぎ。
お店のために、タラのために、やりたかったけど間に合わなかったこと。
店頭、店内のディスプレイの改善だ。
定価売りしているのは珍しい(値段交渉に疲れている旅行者にとっては嬉しい)のに
通りからパッと見では分からないのがもったいないと思っていた。
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(↑当初のお店の様子)
そこでダンボールを切り抜いて数字をつくり、
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外に掛けているバッグ用の値札を作ってはどうかと考えた。
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↑試作品。
店内の棚にもプライスをつけたくて、小さな札も何種類か作ってみた。
これいくら?と聞かれていちいち答える必要がなくなって、 タラの手が少しでも空くように。
でも、実際ディスプレイを完成させるまでは残念ながら間に合わなかったので、
私が作ったものは参考ということで、
あとはアートも学んでいるというレイチェルに任せることにした。
「私もそれを考えてたの!」と喜んで引き受けてくれた。あぁ、よかった・・・。
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(今日、レイチェルがどこかからザルとラックを持ってきて、 パパっと手を加えた
店頭ディスプレイ。以前と比べると断然楽しくて魅力的になった)


そして最後に、会計と清算。
結局なにがどれだけ売れたのか、最終的な報告だ。
いちいち断りを入れずに在庫をひっぱり出したりカフェに持って行ったり
詰めたり送ったり、本来ならあり得ないのに、
タラは「大丈夫、どんどん進めて!」と
私たちを信用して自由に動かせてくれていたから、
売り上げ金の話も、ここで初めてする。

勇輝がエクセルできれいにまとめ、印刷してきた資料を取り出す。
店のシャッターを半分閉める。
電卓と、分厚い札束を取り出す。
薄暗くなった店内には、タラ、夫のキム、娘のクリスピー、レイチェル、私たち。
緊張と不安と、胸の高鳴りがごっちゃになった空気。
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勇輝から報告する。

オーダー件数、45。
オーダーされた商品の総数、320個。

お金を渡す。
売り上げ金、日本円にして21万86円。
あと、別の封筒で、送料に使う分のお金。

レイチェルが「すごい!素晴らしい!」と言う。
タラが胸を押さえ、「ああ・・」と言う。
Thank you very much と数えきれないほど言う。

お金を確認してもらうが、興奮して自信がなくなっちゃって
途中からキムに代わってもらったタラ。
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次につながるように、商品ごとにいくつ売れたのかも報告した。
第一位 カメラストラップ44個 (首26・手首18)
第二位 ピンクふんわりバッグ40個 (赤16・ピンク24)
第三位 ミニなんでもポーチ39個 (ピンク12・赤グレー7・赤白8・黄12)
第四位 ざくざく靴下36個 (ピンク18・茶15・その他3)
第四位 やわらか手編みシューズ36個
第六位 ポケットいっぱいバッグ27個 (モスグリーン15・赤11・その他1)

オーダーは、北は北海道南は関西バンコクジャカルタ西はUAE東はUSAから。
そして、未来につながる可能性として熱望していた (けど無理だと思っていた)、
プロのショップからの、まさかの大量発注も!
京都のショップから、6商品12色の90品のオーダーがあったのだ。
友人の雑貨屋に提案に行きたいので、と、
「中身は自由に選んでください」というダンボール1箱のオーダーもあった。
まったく私たちの想像していなかった結果だった。

また、自分たちの直感を信じ、すぐ行動に移せたのも、
ブッダガヤで得た学びがあったから、だが、もう1つ。
そのとき資金を支援してくれた仲間達が、今回かかった経費
(試作品の材料、梱包のための文房具、印刷、郵便局までの交通費等)を
「5000円で何ができるだろう」企画の一環として出してくれた。
ぴったり5000円だった。

私たちのこの感動と感謝を、興奮しながらタラたちに伝え、分かち合った

そして、
もうひとつ・・・

というところで勇輝が頭をかかえる。「やばい、足りない!」
昨日今日で入った大量発注の連絡で、かなり余裕を持って下ろしておいたお金が尽きたのだ。
キムがすぐバイクにまたがる。
行こう!

落ち着かない気持ちで待つ私。
確か、3枚ある銀行カードすべて、引き落としの限度額いっぱいになっていたはず・・・。
タラはまだ、売りあげの数の多さが信じられないと、胸を押さえたりため息をついたりしていた。
10分ほどして勇輝が戻る。
「すごいことが起こった」
細かいことは説明が難しいのだけど、とにかく通貨変換レートの関係で、
あと少しづつだけ引き落としができて、3枚のカードでそれをやって、
ぴったり足りる額になった、というのだ。
うわー・・・

あらためて、
もう1つの封筒にお金を入れて、渡す。

タラにはずっと内緒にしていた、1個50円の、皆からの「気持ち」。

1万6000円分。

タラの目にぐわっと涙がたまる。震えている。

次の瞬間、タラが口を開き、出てきた言葉は
今度は私たちの目の奥を熱くさせた。

「このお金でミシンをもう1台買うわ。そしたらもう1人、女性に職を与えられる」。

そのときの、興奮してしゃべるタラ。

http://www.youtube.com/watch?v=L9wdp5HqFU8

ミシンを買って、支援する女性を1増やす、これこそやりたいことだと。
こういった支援をもとに、1歩1歩やりたいことを叶えていきたいんだと。
(最後に入っているのは、空気の読めない愛すべきキムが「ラストシガレットMIWA!」と誘う声)

なんて素敵なことだ!と思った。

オーダーをくれた人々と、
応援してくれていた人々(なぜならそれがなければ私たちは頑張れなかったから)で、
みんなで少しづつ、少しづつ、
お金と、力と、気持ちを出し合って、
ネパールのポカラという町の、ある1軒のお店に
ミシンを1台買ったのだ。
1人の雇用を生んだのだ。


みんな、 ああ、伝わるだろうか。
本当に、本当に、ありがとう。
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優しい気持ちを、ありがとう。
大好きなタラたちと、私たちに、こんな感動を、ありがとう。
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やってよかった。本当によかった。

できすぎなんじゃないか?という、
ちょっと鳥肌が立つような感覚。心臓の音。
病気になったから、ポカラに来たこと。
ホテルをたまたまレイクサイドの中央エリアにしたこと。
ふらりと入った店で、タラに会えたこと。
タラと、家族と、女性達が最高だったこと。
レイチェルが来たこと。
バンダ(スト)の再開がなかったこと。
お金がギリギリ足りたこと。
たくさんの人が、応援してくれたこと。
どれか1つでも違っていたら、ダメだった。
大げさかもしれないけど、
それはまるで、奇跡のように思えた。

最後に撮った、 すごく緊張しながらの、タラからみんなへのメッセージ。

http://www.youtube.com/watch?v=N04PKgyJgJU

旅の途中で。
私たちがやったのはブログに上げるという、それだけで。
一人一人の、ちょっとしたアクションで。
一人ちょっとずつの気持ちとお金で。
繋がって、広がって、なにかの形になった。
誰かを笑顔にできた。
自己満足かもしれない、不十分かもしれない、
中途半端だったかもしれない、でも。
その、「ちょっと」の持つエネルギー、
「とにかく」やってみることの素晴らしさ。
可能性、信じる気持ち、分かち合う気持ち。
そういうものを感じて、とっても嬉しくて、嬉しくて、
星の美しい帰り道、
私たちの心は芯から温まっていた。

買ってくれた人、応援してくれた人、
見守ってくれていた人、
本当に、本当に、
ありがとうございました!!!

(MIWA)