オンダングワ(ナミビア)→リビングストン(ザンビア)
→ルサカ(ザンビア)→リロングウェ(マラウィ)。
そして今日、リロングウェを発ちバスで
バックパッカーの聖地、マラウィ湖はンカタベイへ。

アフリカ南部をほぼ横断する形となった
移動の日々がやっと終わる。
狭く堅い床に寝続けたテント生活にもおさらば、
そこでは最低10日はゆっくりしよう、そう決めて
何やら評判の良い湖畔のステキ宿の個室を予約しておいた。

朝7時。
バスターミナルに着いた。
まずムズズという町を目指し、そこからミニバンに乗り換える。
ムズズまで4時間、そこからは40kmというから
遅くても2時3時には着くだろう。

ターミナルはバスやミニバンであふれ既にカオス状態だったが
バスは簡単に見つかり僕らは一番前の席に陣取って出発を待った。

9時。バスはまだ出発しない。
時刻表は無く「pack and leave」方式ということは想像通りだが
どう見ても満席になった後もどんどん人を入れ続けている。

10時。バスが出発した。
詰め込みが完了した車内はまさに足場の踏み場も無い。
いやあ、お見事。

10時半。
出発から30分たったが近隣のガススタを巡り続け
一向に町を出る気配がない。
チケットを売っていた男が何か現地語で叫ぶと
周りから野次が飛んだ。
隣の男性に状況を聞くと「ガスが足りないので
ガススタを探しているが断られ続けている」
とのことだった。
・・・入れとけよ。。。

ほどなくガススタは見つかったのだが
再度アナウンスがあり給油に時間がかかるため
一旦車外で待つようにとの指示。
乗客は列になりぞろぞろと外に出る。

11時半。給油完了。
乗客がまたぞろぞろと中に入る。
子連れのママがやたら多い。
人数を数えると子供も入れると100人を超している。

いずれにしてもスタートラインに立つことができたようだ。
バス停到着から4時間、長かったといえばそうだが、
まあ想定内、ということにしよう。

13時。バスは順調だ。
しかし随分停車ポイントが多い、30分に1度は停まっている。
停車の度に荷物が盗まれないか見張るのが面倒くさい。
毎回色々な人が乗ってくるが
今回は授乳中のママと鶏を抱えたおばあが乗ってきた。
中国製バスの椅子は極端に小さく
隣の男性と肩を密着させての押し合いが辛かったが
湖畔で寝そべる姿を妄想しながら眠る努力をした。

15時。
11時半に出発して4時間ということはもうすぐかな、
と思った頃、どう見ても何も無い所でバスが止まった。
またアナウンスがあり、乗客がぞろぞろ外に出る。

デジャブのような風景、またも隣の男性に状況を聞く。
今度はオーバーヒーティングとのことで
水をかけつつクールダウンするまで待つ必要があると。
いや全然驚かないよ、オーバーヒートね。
俺もナミビアであったよ。
ちょっと待てば大丈夫だよね。。。

15時半。
バスは無事に出発した。
100人がまたぞろぞろとバスに乗り込む。
今回は詰め込み方が悪かったのか
隣の男性が横に立っている女性の荷物の置き方に文句を言っている。
また30分ロスったか、そろそろムズズついてくれないと
日が暮れてしまうとちょっと焦り始めた。

16時。
バスが再度停まる。勿論、何も無い所で。

またかよ。。。
そろそろまじ時間が。。。

ドライバーが僕らの席の前に積みあがった荷物をどけ始めた。
床をぱかりを開けエンジンをチェックする。
見事に煙を上げている。

前で見ていた乗客が逃げ出すように外に飛び出そうとするが
人が多くてなかなか出られず押し合いへし合いが始まった。
軽く悲鳴をあげる人、うるせえと叫ぶ人、
車内はちょっとしたパニック状態になりつつ
本日3度目の車外退避。

おいうぉい。
まさか、じゃあねえだろうな。。

外に出てしばらく様子をうかがうが、
今回は水をかけようともしていない。
話を聞くと悪い予感は的中で「もうアウト」だそう。
10分ほど待てばあと少しは行けるらしく(なんだそりゃ)
数km先の集落まで届けたらお金を返すから自分で何とかしろとの事。
・・・
日が暮れる前にとか言う問題じゃねえぞ、
無事にたどり着けるか、今夜の宿はどうするか。。。

16時半。
聞いた話どおりクールダウン後バスはもう少しだけ走り、
少しもちょっとしていない集落に送り届けられ、
500クワチャ(300円)のリファンドをもらい、
僕らは見事に放り出される形となった。

まわりの人に話を聞くと次にバスはいつ来るかは分からないし
どうせ満席だろうから期待できない、
ヒッチしかないだろうと言う。
言われなくてもヒッチ体制だった美和は
既に荷物を確保し他の乗客から離れた場所で待機している。
四の五の言ってられない、周りを押しのけても
最初に停まった車に乗り込もうと意を決した。

16時40分。
なんと、こんなにすぐにおあつらえ向きのトラックが!
ヒッチ体制をとっていた数人が一斉に手を上げる。


(よく写真撮ったと思う)

ラッキーにもトラックは停まってくれた。
10人ほどが一斉に走り出す。
僕らもよく分からないがとにかく走ると、
トラックの兄ちゃんは親切に手まで貸しているではないか。

出来すぎの展開を喜ぶ余裕も無く車に乗り込むと、
2段ベッドになっている運転席の後ろに押し込まれた。

薄暗い車内に光るいくつもの目、鼻をつく臭い、
目の前には上のベッドから降りてくる裸足の足。
ぬお~なんじゃこりゃな状況だったが、
同じバスに乗っていた人たちという事もあり
恐怖は無かった。

これは絶対シャッターチャンスでしょうと

カメラを取り出し許諾を求めるとOKというよりカマン回答。
車内にちょっとやわらかい空気が流れた。


(運転席と助手席スペースに座っていた僕目線)

(親切にベッド奥に座らせてもらった美和目線)

17時40分。
ついに、ついにムズズ市内に入ったっぽい。
突如集金が始まった。
1人400クワチャ(240円)、2人分で1000クワチャ
渡したらご丁寧におつりまでもらえた。
ヒッチは有料が基本らしいが良心価格に感心。
してる場合ではない、美和の顔色は限界に見える。

僕らが降りたいバスターミナルはまだ先らしいが
近隣に住む人たちが降りるために町の入り口で車は停まった。
数人降りてさあ出発、という所に1台の車が横に停まった。
1人の女性が降りてきて何やらドライバーにわめいている。

カーテンを閉め息を潜めながら状況をうかがっていると
隣の男性が苦い顔をして言った。

「彼女はポリスだ。詳しくは聞こえないがライセンスを剥奪すると言っている。」

おいおいマジかよ。
俺らは関係ないよな、まじ勘弁。
とにかく下手に動きたくないのでじっと待つ。

数分後、ドライバーが戻ってきた。
無言でエンジンをかけ、車は走り出した。
前にはポリスの車がある、連行されているのだろうか。
隣の男性に聞くが彼も分からないと言う。

17時50分。
ほどなくバス停付近に到着、
よく分からないまま僕らは開放された。
別れ際どう見てもついてないドライバーにサンキューと言うと
サンキューと言ってくれた。

そのままバス停まで数分歩く。
ずっと色々教えてくれていた男性は
「話を聞いたら停車中に車道側に扉を開いたという事らしい。
完全に金目当てのインネンだな。」と言いながら、
親切にもバス停まで僕らを送ってくれた。
彼の優しさから疲労困憊の心身はわずかに元気をもらった。
あと少しだ、頑張ろう。

18時。
バスターミナルでンカタベイ行きミニバンを見つける。
一番先に出るものを聞くと既に満杯に見える車を指差される。
一瞬たじろいだが2人+荷物もいけるというので押し込む形で乗せてもらう。
もう日は沈んでしまったが少しでも明るいうちに宿に着きたい。

19時。
思ったより時間がかかったが
バンは曲がりくねった坂道を下りンカタベイに到着した。
既にあたりは真っ暗だ。
予約しておいた宿は(いやまじ、しといてよかった・・・)
徒歩15分ということだったが、暗がり、
荷物もあるし絶対歩けない。

ここでのタクシー交渉が今日最後の関門だと気を引き締めると、
ミニバンのドライバーが聞いてきた。
「マヨカビレッジ?」
なぜ知ってるのだろう。
イェスと答えると送ってくれると言う。
「マヨカはフリートランスポートなのさ。」
おおなんと彼は神か仏か!
と喜びながらも最悪の事態もありうると車内を見回す。
ドライバーは強そうじゃないしここは安全という噂、
お願いしない手はない。

バンが走り出す。
リビングストンの宿にあったガイドブックの地図
(を撮っておいた写真)を見ながら場所を確認していたが、
真っ暗な山奥に入っていく雰囲気と異常にデコボコな道、
美和は泣きそうだ。
座席を掴む手に力が入る。

そして、19時15分。
マヨカ・ビレッジ着。

湖に面した崖を不揃いな石の階段で降りていくと
イカしたバーやかわいいビラがライトアップされている。
その姿は秘密のアジトのようだと感動しながら部屋へ通される。
しっかり目を見てウェルカムと言ってくれたオーナーの女性が天使に見えた。

12時間にわたる死闘のような移動が、やっと終わった。
シャワーを浴びてかっくらった、
(何をした訳ではないのだが)勝利のビールが
死ぬほど旨かった事は言うまでもないだろう。

*

ゆっくりチルアウトしにやってきた、マラウィ湖。

なのに、何故こんな大変な思いをしているのだろう。
ふと、くそ厚いある夏の日に見かけた
長袖シャツ、グラサン、サンバイザー姿だったあるおばさまを見て
美和がつぶやいた言葉を思い出した。
「美しさを保つために、醜くなる。」

もしくは「久々の休日はゆっくり温泉でも、
と出かけたところ渋滞でヘトヘトのお父さん」。

チルアウトのためにハッスルという矛盾が、
マラウィ特産のKUCHE KUCHE BEERとともに僕の体にしみわたった。