パタゴニアでの1人旅も終盤にかかったある夜。
寝坊した上に1日ゆっくりしていたからか、なかなか寝付けない。

「Yeah! I can do it!!」
隣のベッドからはとても明確な寝言が聞こえた。
ヒッチハイクを30回繰り返し、
バスも飛行機もナシでパタゴニアを周ったという
オーストラリア人のカロリーナ女史20歳。

足元のベッドにはイスラエルからの旅行者。
スースーと正確に時を刻む彼女の寝息は随分おだやかだが
いびきと表現できるくらいボリュームが大きい。
そういえば彼女が今日キッチンで、
会話の流れを一切無視して他の旅行者をつかまえ、
スペイン語レッスンを始めてたのは面白かった。


(カロリーナ(右)とイスラエルの彼女)

久々のドミトリーベッド。
久々のバックパッカー宿。
眠れぬ夜、1人旅の3週間を振り返りしみじみ思った。

バックパッキング、最高。

*

日替わりで新たな旅行者が来ては去っていく。

サイクリストのアイリッシュの彼はちょっと変わっていた。
料理してる真横で靴下を笑顔で干された時は戸惑ったけど。
バイク世界一周のコロラド出身アメリカンのおっさんのジョークは
面白くなかったけど自信満々の態度が面白かった。

キッチンで料理をしてれば誰かしら来ては会話が始まる。
空気を読むとか、距離感はかるとか、そういうのは全部スっとばして。
誰も僕を知らないところから始まり、
今までの旅の話に始まり色んな話をして、
色んな話を聞いて、つっこみを入れて、
新たな友人ができたり、できなかったりする。

ガイドブック頼りに観光名所を訪れ、
トレッキングなどのアクティビティを楽しみ、
パッカー宿に泊まって旅人達との出会いを楽しむ。
いわゆるバックパッカーの旅。

「僕ら、そーゆーのじゃ無いんで。」
正直、今までそんな風に思ってた。
そういう「普通の」旅じゃなくて、もっと「いい旅」をしたいと。
もっと現地の人と触れ合って、かかわりあって、
時間をかけてその文化を身体で感じるような、
もっと現地に溶け込むような 、そんな旅をしたいと。

でも今、1人の「普通の」バックパッカーになって、3週間。
気づいた。
猛烈に楽しんでいる自分に。

調べ物をして準備して妄想するのも、
山に登るのもチャリに乗るのも釣りするのも、
旅のストーリーを肴に新たな友人達と呑んだくれるのも、
オモレーじゃん、超いい経験じゃん!って素直に感じられた。
「いい旅」かこれは?とかどうでもよくなってて、
ピュアに旅が、楽しかった。

思えば普通はいやだとか、こういう旅が「いい旅」だとか、
いつからそんなエラくなったんだっつーの。
どれだけ傲慢なんだっつーの。
自分に突っ込みを入れながら、
肩の力が抜けていくのを感じていた。
そしたら、なんかホントに気持ちよかった。

そしてこの感覚が、1人でパタゴニア旅をして得た、
一番価値のあるものなんだろうな、と思いながら、
寝言といびきを聞きながら眠りについた。

*

数日後、美和から連絡があり、翌週早々の合流が決まった。
朝4時半、タクシーに乗り込み飛行場へ向かう。
外を見ると、水平線のすぐ上から満天の星空が広がっていた。
サハラ砂漠で見たそれにも負けない程素晴らしいものだった。

夜明け前に出発した飛行機は、
ちょうど朝日が昇るころに下降を始めた。
機体が2層になった雲の上層を通過した時、
真っ赤に燃える朝焼けと、
下層の雲を突き抜けてそびえるアンデスの山々が見えた。

きれいな景色を見て涙が出たのは初めてかもしれない。
本当に感動した。
そして素晴らしい1人旅だったと、誇らしく思った。