半ば押しかける形だったんだけど、
「幼稚園をお手伝いさせてください」と言って、
私たちはモニクの家に泊めてもらった。約1週間。

その期間はちょうど、2ヶ月居たマシューにとっても最後の1週間だった。
モニクもちょうど、フランスに里帰りをする1週間前だった。

英語が上手なモニクと勇輝が盛り上がる旅トーク、
英語勉強中のマシューと私の中学生みたいな可愛いトーク。
モニクと私の女同士の時間と、マシューと勇輝の男同士の時間。
そして、それぞれのフランス語と日本語のひととき。

私たち4人の組み合わせは常に色んな形に変化して、
でも不思議ないいバランスをとっていた。
全員友達ってのもなんか違うし、モニクがママ役かといえばそうでもなく、
可笑しな形ではあるんだけど
家族のようなささやかな愛おしさがあった。
小さな、家族の一週間。

 

私たちは喜んでもらおうと、日本食を作ってはことごとく失敗したり。

大破した巻き寿司。

微妙だったざるうどん。ズルズル食べるのが粋と教えて皆で練習。

 


モニクとマシューは、いつも美味しいフレンチ風料理を作ってくれた。

ホイル焼きにした、白身魚のムニエルに、
謎に素敵なオードブル。
なんとエスカルゴ。缶詰で売ってるという。 あとは食後にマシューの焼いたレモンパイ。素敵すぎ!
さすがお国柄、食べることの楽しみ方を知ってる。
勇輝も私も、とても刺激を受けた。

お決まりのルールがあって、
朝はルイボスティーとトーストで、昼は食後にコーヒーと濃いチョコレート。
夜はビールで始めて

(作りながらってことが多い)
よく冷えたロゼのワイン、食後にパンとチーズ。
このルーチンがとても心地よくて、私たちは
とくに夜はたっぷりと時間をかけて食事をし、いろいろな話をした。
ナミビアの話、日本とフランスの文化の違い。
今までとこれからの話。



この日は昼間からちょっとワイン。

 


4人で水たばこを吸って、
モニクが好きだというウォッカをストレートで飲んだ。


こんな姿、「幼稚園の子供達には見せられない」とマシューが言い、
「娘には見せられない」とモニクが言って、皆で笑った。

そのあとは月を見た。
たくさん笑った夜。

 

 

 

たくさんの話をする中で驚いたこと。
モニクは筋金入りの旅人だった。

 

20年も前に、旦那さんのフィリップと一緒に
フランスからキャンピングカーで
欧州→中東→インドの往復をした話。
それ以降も毎年、1年に1~2度、数週間の休みを取って
旅してきた国々の話。
仕事部屋には世界各国の風景や人々の写真が飾られていた。

 

もっと驚いたこと。

 

それらの話の中に普通に旦那さんのフィリップが出てくるから、
私は途中まで、フィリップは今どこにいるんだろうと思っていた。
しかしフィリップはもうこの世に居なかった。
ちょうど1年前、二人で南米旅行をしている途中で
突然、心臓発作で亡くなってしまったのだという。

 

穏やかで温かで、爽やかな風のような雰囲気を持つ彼女だけど、
たまにふっと空気感が変わるときがあって、
さりげなく、ドキリと心に残るような一言を言うときがある。
「アンバランスが好きなの。整ったものは面白くない」
「悪いことは、それを考えてる人のところに起こるものよ」
これまでの旅と経験、たくさんの喜びと悲しみが
61歳の彼女を創り、深みを持たせているのだと思った。

 


 

最愛のパートナーがいなくなって、
二人の思い出がいっぱい詰まった家に1人で取り残されて、
それがナミビアで。
モニクはどうやって乗り越えたんだろう。
私なら、仕事をするのはおろか、立っていられるだろうか。
名前を出す度に泣いてしまわないだろうか。
なのに彼女はフィリップの話をたくさんする。
そして旅も南米もタブーにしない。
一人旅は生に合わないから、旅人の素養のある
孫娘と南米を旅するのが目下の夢だという。
まだ小学校にも上がってないから、もうちょっと待たないとね、
と笑う。

 


フィリップと共に行った旅の数々のエピソードを
サラリと聞かせてくれながら、
本当に全てが素晴らしかったのだと。
苦労も不安も1つもなかったと。
強い人。勇敢な人。子供のような瑞々しさも持った人。

 

 

でも、強くないのかもしれない。
私たちがモニークの家を出た日、彼女の目に涙があった。
「こういう、お別れとかって、苦手でね」。
涙を隠しながら言った。
明日はマシューとモニクがフランスへ飛び立つ。
マシューとの別れはもっと辛いものだろう。

 

でもモニクだけは数週間したら、
またナミビアの家に戻ってくる。
そのときはひとりぼっちなんだ。
そう思ったら急に苦しくなって、切なくなった。

 

言葉では表せないたくさんのものをもらった1週間。
別れたくなかった。ずっともっと居たかった。
それは広くて美しくて居心地のいい
家のせいだけじゃなかった。

 

お別れに、私たちが内緒で準備した写真と手紙。
彼らが私たちに用意しておいてくれた、
(ある意味思い出深い)クードゥと名前入りのキーホルダー。

 

ありがとう。さよなら。
またいつか。

 

マシューが無事卒業し素晴らしい仕事に巡り合えますように。
どうかモニクが、いつも、フィリップの思い出や
誰かの優しさで温められていますように。
もし温かさが足りなくて涙がこぼれそうな夜があったら、
私たちの体温を足しに使ってほしい。
たった1週間だけど優しさを分け合った
小さな家族からの。

(MIWA)