キャラバン2日目。
もうすぐ日が暮れる。
大きな松の木があるこんもりした丘。
白くて三角のテント。
パンをこねる人。
こぶしをきかせて歌う人。
スープを煮る人。
3頭のらくだ。
グラデーションをつくる空。
小さく白く力強い半月。
その傍に光る一番星。
美しすぎる世界。
空。
歌。
火。
美しい。
夜の砂漠に歌声が響く。
焚き木が照らす世界、以外何も見えない。
ウィンアーメ、ジャクサイヤー
鳥よ逃げなさい、猟師が狙ってる
ウィンアーメ、ジャクサイヤー
なにか、古い歌を歌いたくなった。
長く歌い継がれてきたような歌を。
それで子供の頃聴いた「会津磐梯山」を歌い出したけど
残念なことに、2節しか覚えていなかった。
*
ノマド。
移動し続ける民、特定の帰る場所を持たない民、
そういうふうに理解していたけど
ああ、きっと、ちょっと違うんだなあ、と思った。
時計を見ない。
大きな力に逆らわない。
焦らない、苛立たない、嘆かない。
すべてを包み込む世界観と
尋常じゃない忍耐力、もしくは究極のポジティブ思考を持った人々。
こういう感覚の人々を、
もしくはこういうカンカク自体のことを
ノマドというんじゃないかと。
長すぎじゃない?と実は思った
3泊4日というキャラバンの日程だけど
なるほど、3泊というのが、
このカンカクの片鱗をオボロゲながら
やっと掴める、最低限必要な時間だったのだと思う。
*
3日目の朝。
ふと目が覚める。
おそらく5時かそこらなんだろうけど定かじゃない。
テントの入り口の布の隙間から、地平線に突き刺さるオリオンが見えた。
かけていた4枚の毛布のうち1枚を剥がして
体にぐるぐる巻きにして外の砂の上に寝転ぶ。
ジュラバのフードの丸い視界の中に、敷き詰められた星々。
ゆっくり数を数えたら、6とか10とか言ううちに1つは流れ星が落ちる。
私が今まで流れ星と認識していたものとはちょっと違う、
視界で何か動いたからそこを見ると、まだそこからてゅるるーと落ちていくような。
ずっと流れ星を見ていたら、不思議な感覚になった。
目の前のひしゃく星、この7つの星に名前がついてから
何百年?も流れてしまわないで
ここにあり続けてるって・・・、なに?
これ、ものすごいことじゃないかと思った。
砂漠で生活をしていると、圧倒的に謙虚になる。
傲慢になれようがない。
でっかい宇宙の中の1つの惑星なんだって、
長い長い長い歴史の中で、
この砂漠が海だった頃からの
大きな流れの中に今いるんだって。
*
たぶん30分もしてないのだろうけど
身体の奥のほうから凍えてきた。
砂がしんしんと冷たい。
3人の砂漠の男たちは、外で寝ている。
3頭のらくだもその傍で眠っている。
うわーーーすげえなーーーー。
男って。
なんかそう思った。
めっちゃ冷えても平気、
暑い中歩き通しても平気、
すっごく重い物だって持てる。
(キャラバンのらくだは、150~200キロもの物を運べる。
でもそれはオスだけなのだそうだ。)
なんか、うん。
参りましたっていうか、
こうでなくちゃっていうか、
とにかく、私の中にあった感覚って、
ちょっとズレてたなって思わされた。
もう、都会の生活の中で、訳わからなくなっちゃってたけど、
男ができること、大概女もできるみたいな、
むしろ女のほうがいろいろやってる苦労してる、みたいな感覚は
なんか違うし、なんかみっともないかもなと思った。
うーん、うまく言えないな。
「もっと素敵な」彼氏、旦那、を目指して
男に、だし巻き卵とかハンカチのアイロンがけとか
やらせてる場合じゃないかもなー、と思った。
その「素敵」は、格好いいんじゃなく、
都合がいい、ではなくて?と。
とにかく、男は、男である、
それだけで格好よくて、
すごいんだ、強いんだ、って
なんかじーんとしたんだ。
疲れたら、ノルディンとヤヒアが私を持ち上げてくれて
らくだのラズハムかセベイが私を運んでくれた。
イブラヒムは笑わせてくれた。
勇輝は話相手になってくれた。
人間とらくだ、かっちょいい男たちに守られて、
私の砂漠4日間はロマンチックで、幸せで。
トイレもシャワーもないことなんて気にならなかった。
(あ、でもあと1泊って言われたらごめんなさいしただろう。
4日間は、本当にちょうどよかった。)
(MIWA)