行動させてくれたのは、彼だった。
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スジャータテンプルの木陰で休んでいると、ラマさんに1人の男性を紹介された。
そのプラモドという男性は、先ほどの小学校の創設者だった。
この寺のすぐ脇に小さな平屋の建物があり、これが本校、
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先ほどのは第2ブランチ兼オフィス、もう1つ別エリアに第3ブランチがあるという。
木陰に腰掛け、話を聞いてみた。
ドネーションペーパーも視界に入りつつ。

この村で育ったプラモドは大学まで進み、社会学を専攻。
十数年間街で教師を務めたのち、
自分の村に学校へ行けない多くの子供達がいるじゃないかと奮起し、
仲間7人で資金を持ち寄り学校をつくった。自らは教師として現場に入った。
政府からはお金が下りないので、すべては創設メンバーの身銭と
旅行者からの寄付で成り立っているという。
彼の表情、とりわけ穏やかな目を見ていると、ぐっと胸を打たれるものがあった。
もちろん、色々な嘘を言い慈善事業の名のもとに
私腹を肥やす人間や団体もあると聞く。
でも、彼からは素朴で純粋なものが感じられた。
勇輝が言う。
「学校を何度か見にきてもいいですか。なにができるか、自分たちで
考えてみたい。子供たちと一緒に過ごしながら」。
私も同じ気持ちだった。

もと来た道を街まで帰る。
ラマさんにターリー(カレーの定食みたいなもの)の昼食をご馳走して、宿へ。
今日の案内と、少し通訳的なこともしてくれた御礼にと勇輝が100ルピー渡す。
苦い表情でお札を弄ぶラマさん。2人の娘がいて新学期の準備があって・・・。
私がもう100ルピー渡す。200ルピー。400円。さっきのターリー10杯分。
まあ、いいんじゃない?ほっとした様子でラマさんは帰っていった。
申し訳なさそうにもじもじ言い出した可愛いさ。
でもやはりそうキタか、と心の中で苦笑した。

とにかく、プラモドに言ったとおり、一度自分たちの目で見よう。
それからの数日間。私達は朝5時半に起きて、
歩いて15分の日本寺で行われている勤行と座禅に参加し、
朝食を食べて、灼熱の砂漠を渡って、小学校へ通った。

顔を出すと手を止め一斉に立ち上がり、
「ナマステー!」と胸の前で手を合わせる各教室の子供たち。
56人と一番人数が多いのが3歳~5歳のナーサリークラスだ。
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手が足りない教師の補助で、アルファベットの読み書きの採点をやらせてもらった。
途中ちょろまかして持ってきちゃう子、どうしてもLMNが言えない子、
OPQがやたら多い子、スラスラ言えたのに途中の1つを指したら急に黙る子。
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でもどの子も一生懸命で、「できた!」と目を爛々とさせて
ハァハァ言いながら持ってくる。抱きしめたくなるくらい本当に可愛い。

その上に1~5のクラスがあるが、ここでは年齢ではなく
テストの合否で進級がきまるシステムだった。
テストに通ると新しい教科書やノートがもらえるため、
皆一生懸命勉強するそうだ。
上のクラスを覗く。サイエンスの授業。
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ヒンディ語だから分からないけど、なかなかしっかりした教科書のようだ。
10歳~12歳の子が中心だったが、1人だけ8歳の子がいた。
土曜に学校にいた子、つまり親のない孤児、アミット・クマールだった。
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アミットの両親はバラナシで交通事故で亡くなった。
ニュースを聞いたプラモドが現地に行き、アミットを引き取ってきたのだという。
教室を見渡すとさすが上級生。机、ではなく床にかじりついて皆真剣に
ノートに文字を書き付けている。でも誰かが鼻歌を歌っている。
眺めているだけで自然に微笑んでしまう。

午前中の授業は10時から12時。
昼食は各自家に帰ってとる。
私たちは孤児たちと一緒に、スタッフの女性が作るタリーを食べた。
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続々と子供達が戻って来る。私も勇輝もそれぞれ取り囲まれ大忙しだった。
名前を聞かれ答えること数十回、自己紹介されること数十回、
あとは写真を撮ろうとか外に行って遊ぼうとかノートに描いた絵を見てとか
爪見せてとか指輪見せてとか帽子貸してとか。
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足と手と頭をそれぞれ違う子に持ってかれるような、
まさにもみくちゃな状態で、精一杯1人1人と話す。
頭を撫でる。頬に触る。握手する。
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私たちを何者だと認識しているかは分からない。
でも子供達の目は、
それはそれは澄んでいて、
自分が恥ずかしくなるくらい澄んでいて、
美しく尊かった。
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午後の授業は13時半から15時。
放課後またみんなとひとしきり遊ぶ。
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明日も来るよ。本当?明日は私と遊んでね。
いいよ。バイバイ。
半ば追い出すようにして見送る。まだまだ暑い。
笑顔で腕をちぎれそうなほど振るみんな。

そんな体験をしながら、ひらめきがあった。

「机と椅子はどうだろう」。

子供達の姿を見ていて、一緒に遊んでいるときの笑顔も最高なのだけど、
一番は、必死に勉強している姿が美しかったから。
床に這いつくばる苦しそうな体勢を楽にしてあげたかったから。
「せっかくだから何かしなくちゃ」と無理くり考えたのでもなく、
はじめて「これをしたい」と思えた。
よそよそしかった自身の中の“社会貢献”
とはまったく別の感覚だった。

人件費も驚くほど安いインド、5000円あればいけちゃうかもしれない。
早速翌日プラモドに話す。
彼は飛び上がって喜んだ。「ザッツグッドアイデア!サンキュウサンキュウ!」
善は急げ、カーペンターを呼べない?見積りが欲しいんだ。OK。
午後には児童の父だという大工さんがやってきた。
よしよし、なんかスムーズだぞ。
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教室の計測をする。メジャーの端を持って手伝い、ノートにサイズを書き取っていく。

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授業中。子供達はなに?なにするの?とわくわくして見守っている。
たまにめちゃくちゃ斜めに測ろうとする大工。
大丈夫か?こいつプロだよな??
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次に何人か体格の違う子供を椅子に座らせて高さを測る。
ああ、プラモドすごく嬉しそう!教室からその様子を覗いていた子供たちも
「あ、机と椅子を作るんだ!」こそこそ話し、目を輝かせていた。

ベッドのある奥の部屋で大人たちで頭をくっつけて話し合う。
真ん中に教師が歩けるスペースを取って、両サイドに長い机とベンチにしよう。
4人座れるイメージで。各教室6セットあればいいか。ここだけ4セットでいいな。
ナーサリークラスは人数が多すぎるし体が小さいので今のままでいこう。
いつの間にか現れたラマさんが所々で通訳として活躍してくれる。
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ノートに図面と机・ベンチのデザインを描く。
ヘリは危ないので丁寧にヤスリで削ってくださいね。OK。
材質は?安いのがバーヤンツリーだけど弱い。丈夫なのは?マンゴーだな。
じゃそれでいこう。で、いくら?

大工が誰かに電話をしている。
木材の金額を確認しているらしい。

「800ルピー」。

え?全部で?ノーノー!1セットで。

頭が真っ白になる。1セット1600円?なんで?
木材がどんどん高くなってるそうだ。
ダメだ。5000円じゃ3セットしか買えない。
甘かった。
今度は皆が私たちの答えを固唾を飲んで待つ。

「すみません。一番小さい教室分、4セットだけお願いします」。

精一杯の回答だった。
部屋を包んでいた熱気が、冷水をかけたようにシュンッと音を立てて消えた。
プラモドはわざと大きな声で、サンキュウ!アイムハッピー!と笑ってくれた。
明日木材を買いに行って明後日から着工、1週間で完成だそう。
料金3200ルピー(6400円)は部屋に戻ってラマさんに預け、
大工に渡してもらうことにした。

ラマさんと、「一緒に帰ろう」と言ってきた兄弟とともに砂地を戻る。
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私は心がじくじくしていた。
本当によかったのかな。
学校としては本当は3200ルピー欲しかったんだろうな。
ドネーションを断って、形に見えるものだといいなって、
これじゃ私たちのエゴじゃないだろうか。
インドにも、いや世界中に、床で授業してる学校なんてたくさんあるのに、
こんなの中途半端じゃないだろうか。

そんな思いを抱えながら部屋に戻り、ラマさんにお金を渡した。
彼はしょぼくれた私の顔を見て、「机と椅子、いいこと!いいこと!」と
親指を何度も突き出して励ましてくれた。

勇輝とじっくり話す。やはり勇輝は前向きだった。
まずやってみよう。見てみよう。
そうだよな。私も気を取り直していく。

どんな物ができるのか、何が起きるのか、
これが何を意味するのか、どんなHAPPYをつくるのか。
偶然が重なって出会った縁のある彼ら。
ただドネーションして終わりじゃなく、心を込めて支援できる、
小さな一歩を踏み出したんだ。

(MIWA)