力をくれたのは、彼らだった。
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イダンの村へ行った午後、勇んで学校へ向かった。
約束通りいけば、大工作業を始めているはずだ。
だけど、そう上手くいくかな。だってここはインド。
なにが起きるか分からない。
がっかりしないよう自然と予防線を張る。
「家が火事で全部燃えてしまった。もう一度お金くれ」なんて言われたりして。
冗談を言つつ、意思に反して期待は膨らんていだ。

息せき切って2階の空き教室に入ると、大量の木材が届いていた!
やった!
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あれ?大工さんとなぜかラマさんがいて、何か話している。
深刻な顔してどうしたの?
プラモドも来ていて、また奥の部屋に集合する。
嫌な予感。
それは、まあまあ当たった。

「木材の金額が上がっていた。800ルピー足りない」。

はぁ?!電話で金額確認してたじゃん。
お金がすぐもらえなかったから。タイムロスがあって値上がりした。
勇輝が少し大きい声で怒りを露にする。
「じゃあ頼めない。全部返してくれ」
試すため、鎌をかけるための演技なんだろうなと思った。
でも大工とラマさんは困った顔をするだけだった。
私はショックで呆然とする。
どうして?どうして?ひどいよ。
そのうち、1つの邪推が頭を支配する。
ラマさんが大工にけしかけたんじゃないか。
こう言えば「そうですか」って出してくれるって。山分けしようぜって。
懸命にラマさんと大工の顔を見る。何も分からない。
怒っていろいろ言っている勇輝、ショック状態の私。

その後もインド人同士の議論が続く。
しばらくすると突然大工がOKと言った、と通訳ラマさんが言う。
なんとかする、とのこと。 「なんとかするって何だ?
800ルピーはどうなるんだ?大工さんが赤被るのはやめてくれ。」
直接大工と会話のできないもどかしさを抑え、勇輝が懸命に訴えている。
急にプラモドが半分払うと言う、そんなの絶対嫌だ。

何がどうなってるのかわからない。それより、私は
上手く進まないことへの動揺や疑いや悲しさが先行してしまっていた。
全く大人気なかった。
冷静にあとから考えると、この環境なら想像できることなのだが、
金額が急に上がったこと、それを言ってきたこの状況が納得できなかったのだ。
いつの間にか議論は終わり、勇輝が「なんかうやむやになった」と小さく言った。
気づいたらそこに居た全員が、私の暗い顔を心配そうに眺めていた。
でもうまく笑えない。

たった4セットで。
たったこれだけのことがすんなり行かない。
どこまでいっても安心できない。
イダンのしてきた苦労は如何ばかりだったのだろう。

するとどこからか孤児のアミット・クマールが入ってきて目の前にちょこんと座った。
私の顔を覗き込み、不安げに「アーユーハッピー?」。
面食らった私は、なんだか泣き出してしまいそうで、擦れた声でなんとか答える。
「イエス」。
すると満面の笑みで「ナウ、アイムハッピー!!」。
その場で抱きしめて大泣きしたい衝動を堪えた。
「I like your smile」と小さく言ってアミットの頬を撫でるだけで精一杯だった。

子供は、とくに苦労をしてきた子供は、優しい。
たぶん事情なんて分からないのに、空気で感じるのだろう。
帰るとき、学校のベランダから、孤児の三人が手を振ってくれていた。
「ミワー!」「ユキー!」
ずっと振られていた、小さな手。優しい手。
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その日の夕方、大菩提寺前のレストランに入る。
勇輝とふたりになって、私はぶわあああと泣いた。
心の中に強く残っていた4セットしかあげられなかった残念さ、
金額が上がった悔しさ、人を疑ってしまった最悪な自分。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
子供達の顔、アミットの顔が浮かぶ。
ごめんね、みんなにHAPPYになって欲しかっただけなのに。
みんなにHOPEをあげたかっただけなのに。
なんだかうまくいかないや。
あんな小さな、本当は傷ついた寂しい心に私は。
元気をもらって。笑わせてもらって。馬鹿だ。
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アクションには時に痛みが。傷つくこともある。
だから怖いんだ。やりたいのにやりたくないんだ。
偽善云々って、結局アクションしないための逃げとも言える。
それでも、アクションしないと得られない感動があるんだろう。
なにもしないで非難してくる人になんか分からないものが。
私も、楽しんでいきたい!

日が沈む頃、精魂疲れ果てなんだかヨレヨレで街のネット屋に入る。
ふたりで並んで座ってブラウザを開き、「あっ」と声をあげる。
「5000円で何ができるだろう」のアイデアの実行として、
机と椅子4セットを贈ってみることを報告していた、仲間たちからの返信だった。

「すごくいいじゃない。全教室やってあげようよ。お金は何とかするから」

心臓がドキドキいって身体が震える。ぐわっと込み上げてくる。

うち1人からのこんな一文もあった。

「行動に移すことの大切さを、改めて考えさせられました。
チャレンジし世界を良くしようと行動をとってくれた人に対し、
こんな表現があります。
“Thanks for Being The Difference”
二人のアクション、また二人自身が世の中にとっての変化そのものです。」

勇輝と顔を見合わせる。
何も言わず見つめ合う眼からほぼ同時に涙が溢れてくる。
狭く薄暗いネット屋で、私たちはまったく奇妙な日本人夫婦になっていた。
人目をはばからず泣いた。

私たちの真っ黒になった手を、握りしめてくれて
一緒に歩いてくれる同志がいた喜び。
有難う。有難う。
「まっすぐ生きてたら、つながった」
これは勇輝と出会った頃見せてもらった、当時マレーシアにいた友人からの
勇輝宛のメールの一文だけど、この言葉が蘇ってきた。

あんなに疲れきっていたのに、腹の底からふつふつと
強いエネルギーが沸いてくるのを感じた。

帰り道は満天の星空だった。
私たちは珍しく手をつないで歩いた。

まずは4セット。
それがちゃんと完成して、みんなが喜んでくれたら、
残り24セットの話をしよう。きっとそうなるね。プラモドも喜ぶね。
みんなの顔が代わる代わる目に浮かんでいた。
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ブッダガヤ。
どこに行っても埃、埃、砂埃、土煙。
ゴミ溜まり、ゴミの山、ゴミの池、糞尿臭。
そこらじゅうから湧いた蚊。どこに隠れても蚊、蚊、蚊だらけ。
刺すような暑さ。毎日45度近い。風はドライヤーのような熱風。
鼻や喉、粘膜をやられる。咳が止まらない。
なのにしょっちゅうの停電。頼みの扇風機が止まる。
この状況、過酷。
ただ居るだけ、やり過ごすだけでも過酷。
だからだろうか。
いや、釈尊の心に包まれた土地だからだろうか、
毎日好きな人が増えていくからだろうか、
今日を生ききること、
誰かとの語らい、笑顔のやりとり、
1つ1つが、手を合わせたい程きらきらして、
ぐっと胸を熱くさせるんだ。
私たちは今、この地を踏みしめて、進んでいる。

(MIWA)