カーリのバスターミナルに着き、
迎えに来てくれるというフアンチョウを待っていた。
ターミナルの中の小さな食堂に席を取り、
コーラなぞを飲んで話していた私たち。
いつものように、荷物は見えるところに。
パスポートの入っている私の肩掛けバッグは、隣の席に置き、
いつものクセで手すりにひもをぎゅっと結んでいた。
勇輝のリュックサックは足元のイスにもたれかけさせていた。
用心する時は勇輝のリュックもさらにチェーンの鍵でイスなどにくくりつける。
もしくはリュックについているホックをどこかに止めている。
でもそのときはお互い、「ま、いいだろ」と思ってなにもしなかった。
だって、こんなすぐ足元なんだから。
私が店の外を向くかたち、勇輝が内を向くかたちで座っていた。
私たちよりさらに店の外側の席に、二人の中年の男が座った。
店の女の子が注文を取りに行くが、なにやら
いらないとかなんとか、少し座らせてくれみたいな感じだった。
「人を待ってるとかかな」。
店 の外の通路には、30代くらいのビジネスマン風の男がうろうろしながら
電話をかけていた。
私はその男の視線が少し気になった。
たまに私と目が合うし、たまに下のほう、勇輝のリュックの方向を
チラチラ見ているように思った。
まあでも、電話をかけながら色んな方向を見るのは自然なことだし、
大して気に留めなかった。
勇輝となにか話して、
ちょっとそれが盛り上がって笑って、
私は手元のコーラを見て、
コーラを一口飲んで、
顔を上げた瞬間。
その瞬間、ビリビリっと来た。
鳥肌が0コンマ何秒で総立ちした。
一瞬前まで視界の中に居たはずの
後ろの席の中年2人と電話をかけていた男が、
「消えて」いたからだ。
頭で考える前に、まるで反射のように声が出る。
びっくりするほど大きな声。
「勇輝バッグ!!!」
勇輝がそれに反射で反応する。
ガラガラガラ!!
大きな音を立ててブラスチック製のイスを蹴散らし、
身を翻して店の外に飛び出した。
・・・
私は、
立ち上がったものの、動けなかった。
「これ、プロだ・・。」
そう分かって、動けなかった。
まだこの店の中に仲間がいて、私が慌てて離れた瞬間に
残りの荷物も持って行かれる可能性があるから。
でも一番は、
「ああ、終わった」。
と思って、動けなかった。
PC2台とカメラ。各種充電器。バックアップのハードディスク。
「念のために」と分散して隠していた現金。
やっちまった。
・・・
しばらくして、
勇輝が戻ってきた。
獣の顔して。
その手には、
リュックがあった。
「まじでっ?!なんで?!!!」
「追いかけたけど、もう外に出てしまったみたいで男たちの姿は無かった。
絶望して戻って来る途中、すぐそこのATMマシンの横に置いてあった」。
中身はすべて無事だった。
店の人が警察を呼び、事情聴取が始まった。
直後の勇輝(放心中、、、)。
私の分析は以下。
彼らは本当に「プロ」だった。
だからこそ、「これは危ない」と察知するのも早く、ATMの横に放置した。
幸いしたのは、
リュックのありえない重さ(私は片手では持てない)と
奴らが若くなかったこと、
あとは私の反応が意外に早く、しかも大声を出し、勇輝もすごい音を立てて飛び出したこと、
じゃないかと思う。
もしも私たちが気づくのが1分後だったら、間違いなくダメだった。
もしもリュックがもう少し軽く、または彼らが若者だったら、
ラグビーみたくパスするなりして巧みに逃げおおせていただろう。
プロだからこそ判断できるんだ。こういう時は無理をしないべきということを。
もし勇輝がATMの横にあるのに気づかず、そのまま店に戻っていたら
ふらりとその場所に戻って、もう一度リュックを盗ることもできる。
(というか勇輝が「ぬぉおお!」と走ったとき、
実は犯人を追い越してたというのは軽く滑稽だけど)
あなどれねえ・・・・。
私たちはしばし、笑うことができなかった。
身体に力が入らず、猛烈に粟立った鳥肌はなかなか収まらなかった。
今までなーんにもなかったのに、ブラジルに続いて今回。
長かった旅の終わりが見え、肩の力が抜けている今、
ちょっと誰か(旅の神様?)に試されてるような。
なにかの警告のような。
そんな感じがする。
やられてたまるか。
こんなこと、二度とないように、もっともっと注意しよう。
しかしつくづく、守られている。
運がよすぎる。
日本に居る誰か、世界のどこかに居る誰かの
想いのおかげじゃないかって、感謝せずにおれない。
うおおおおおーーーー!
ごめんなさい!ありがとう!!!
(MIWA)