タガズートから15時間を越えるバスの旅を経て、
砂漠の街、マハミドに着いたのは夜10時をまわっていた。
アルジェリア国境まで数kmのここは「道の終わる街」、
マラケシュやカサブランカから続く長い長い国道は
ここでサハラ砂漠に飲み込まれる。
迎えに来ていたターバン姿の男性マクジョウブに連れられ
そのまま砂漠へ入っていく。
今夜はベースキャンプのテントで過ごし、
明日からは4日間のキャラバンに出発する。
1日何時間くらい歩くのだろう?
テントに向かう途中マクジョウブに聞いてみた。
「YUKI、ここはサハラです。砂漠に時間はありません。」
なんとも野暮な事を聞いてしまった。
ここまできて何をうだうだ頭で考えてるんだ。
全てを流れに任せよう、何がおきても受け止めるしかないじゃないか。
偉大な国、モロッコ。
この国は砂漠無しでは語れない。
ノマドと過ごした4日間の砂漠生活は、
久々に震えるほど感動するものとなった。
待望のジュラバを購入
出発。僕ら2人についてくれたのは、お供3人+ラクダ3頭も。
お供は料理担当のノルディン(左)とらくだ使い(カッコいい!)のヤヒア(左)、
それにギター1本抱えて常に歌っているミュージシャンのイブラヒムの3人。
コックにらくだ使いに歌うたい+僕らでパーティを組んで冒険へ、ドラクエの世界だ。
*
ひたすら歩いた後、木陰で荷物を降ろす。
まだ昼過ぎっぽいが今日はここで寝るとのこと。
荷物を降ろし、テントを張ると、それぞれ自分の仕事を始めだした。
イブラヒムは火をおこしお茶を入れ、
ノルディンはスペースを確保し料理を始め、
ヤヒアはラクダ達を野に放ちパンを作り出した。
まるで朝起きてベッドから出て顔を洗うという一連の動作のように、
特段の会話も僕らへの説明もなく、
当たり前としてたんたんと事が進んでいく。
砂漠の男達の男子力がとにかくカッコ良くて
僕らはしばし目を奪われていた。
分厚く灰色の雲に空が覆われ続けた初日だったが
夜になると星が広がり始めた。
おっ、明日は晴れそうだな。
イブラヒムに、きっと晴れるよね?と聞いてみる。
「インシャッラ(神がそう望むなら)」
そう、これが彼らのフィロソフィーなんだ。
*
砂漠の夜は相当冷え込む。
朝、半ば凍えながら目を覚ますと既にヤヒアが起きて火を焚いていた。
まだ日は昇っていないがこれが1日の始まりだ。
朝食をとり、身支度をととのえる。
何時までに出ようとか誰がどうしようなどの会話は無い、
3人がそれぞれ、ゆっくり準備を始め、いつのまにか歩き出す。
*
ある時日本女性の話になった。
未婚のイブラヒムとノルディンは是非会いたいと言うので
でもお金が無いと難しいかもしれないよと言ってみた。
「お金がある生活はしたくない。もっとゆっくり暮らして行きたい。」
誰かが言って、他の2人もうなずいた。
じゃあ田舎でお米をつくっているような女の子は?
と聞いたらそれがいいそれがいいと喜んでいた。
*
毎日ただただ歩き、ポイントを見つけ、拠点をつくる。
拠点ができると昼寝をしたり、近所を散策したり、夕日を見たり。
彼らは1日数回必ずお祈りをする。
10Mほど離れたところで、メッカに向かって何度も何度もひれ伏していた。
彼らの生活は、とってもゆっくりだが、
一定のリズムがあるように感じる。
急がない、でも着実に少しずつ前に進んでいく。
毎日、日も暮れる頃になると、ふとイブラヒムが歌いだす。
一通りの準備を終えたノルディンは太鼓をたたき始め
放したらくだ達の迎えから帰ってきたヤヒアが踊り出す。
まるでそれが当たり前の生活リズムかのように。
*
キャラバンを通じて、常に、常に僕らを魅了したこと。
それは、彼らの明るさだった。
いつもなんか機嫌が良さそうで、たくさん笑って、
難しい顔をしているのを見たことが無い。
言葉はほぼ通じないながらも僕らにもとても優しかった。
そんな彼らに、なんともあたたかい気持ちにさせてもらった。
*
ネットどころか電気もガスも水道も無い環境で過ごした4日間。
ただただ歩き、止まり、昼寝をし、食事をし、歌って踊った、4日間。
自然のど真ん中で暮らす男達の生活はシンプルで、
彼らの横顔はカッコ良くて、笑顔にあふれていた。
そこには政治も経済も無くて、家族と、仲間と、大自然だけがある、
そんな風に見えた。
毎日何回も神に祈りをささげ、
インシャッラ(神が望むなら)、マクトゥーブ(それは神によって書かれている)
という価値観で生きる砂漠の民。
そんな彼らを見ていて、ふと思った。
不幸せは自分で作り出しているんじゃないか。
計画する。時間を決める。期待をする。
期待と違えばがっかりし、思い通りいかないと憤る。
僕らは自分達で勝手に眉間にしわを寄せ、
不安になり、不機嫌になり、疲れていっているようだ。
まあ、彼らがどれだけ幸せなのかは分からないけれど。
もっとシンプルに。もっと楽しく笑顔で。
僕は政治も経済もコンピューターもインターネットも
何でもある世界を生きる身だけれど、
彼らの姿から大切なものを感じさせてもらった気がする。