ワイナリー巡りというのはなんとも楽しい旅のコンテンツだ。世界一周旅行中に南アフリカのステレンボッシュでやったのが初めてで、その後行ったアルゼンチンのメンドーサは、酔っ払いながらチャリンコで巡るのが最高すぎた。

今回はバスクでお邪魔したワイナリーが印象的でそれについて書くのだけど、その前に国内も。去年はご縁あって宮城の秋保にはじまり山梨や新潟をご案内いただき、やはり最高でした。

秋保ワイナリーの毛利さんと。美食倶楽部でもご一緒してます、いつもありがとうございます。
美食倶楽部@新潟からご縁いただいた新潟のDomaine Chaudさん。毎年数十種類の自然ワインをつくる哲学家/科学者の小林さんを訪ねて
山梨は友人家族とともに。子連れにも最高!この写真は大ファンの勝沼醸造さん。

(※いまその山梨はコロナの影響でキャンセルの嵐で大変なそう。ご案内いただいたワインツーリズムやまなしを仕掛ける大木さんのお店も大変とのことで行ける方は是非!)

ちなみに、ワインとかワイナリー巡りって聞くと、あの「ワイングラス傾けて知ったようなセリフを言わなきゃいけない感」が小っ恥ずかしいというか慣れないよね。いやマジ。

僕もその筆頭くらいだったけど、南アフリカで外国だし気にしないでイイヤと突撃して以来、まったく気にならなくなった。というか今もワイン全然詳しくないけど、分からなくても開き直って「カッチョいーー!」とか「ちょっと酸味が◯▲×」とか適当に言いながら楽しむ術を覚えたのは良かったなと思う。

バスクの中のリオハ。「リオハ・アラベサ」

さて前置きが不要に長くなったけど、バスクのワイナリーである。今回の旅では、できるだけサンセバスチャンの外の村々を訪れたいという思いから、友人たちにオススメやゆかりの地を聞いてはそこに突撃するということを繰り返した。

今回まず向かったのは、ビトリアという美しい街。スペインのバスク州は3つの県からなるのだけど、サンセバスチャン(ギプスコア県)やビルバオ(ビスカヤ県)とならぶ3つ目の県アラバの県都にあたる。

画像出典:red2000
ビトリアは他のバスクの地域の人も口を揃えて「美しい」という街。中心にある旧市街の広場にて(Gasteitzはビトリアのバスク語名)

そこに住むちひろさんと今村さんに会いに行った際にオススメされたのが、「リオハ・アラベサ/Rioja Alavesa」というワインエリアだった。

そして「エルシエゴ/Elciegoに行け。できれば何も調べずに。」という素敵な指令をもらい、言われた通り事前情報を入れずにその地を目指したのだった。(事前調査でワクワクするのが旅の醍醐味だが、ただただ突撃し、あとからニヤニヤ行った場所をリサーチするのもとても好きですハイ)

そして、ビトリアから車を飛ばすこと1時間弱。カンタブリア山脈を越えると一気に広がる広大なエリアが、リオハ・アラベサ。有名なリオハワインをつくるエリアのうち、バスク州内に広がる地域をこう呼ぶ。(ちなみにwikipediaによると「2000年前にローマ帝国がワインの苗木を持ち込んだことが、この地域の未来を永遠に変えることになった(意訳)」とステキな言葉を見つけた)

リオハワインの産地は3つの地域に分類される。今回のリオハ・アラベサ/Rioja Alavesaは北の一番小さなエリア(画像出典:winealongthe101.com
これはリオハ側から撮った写真。奥に見える山脈がカンタブリア山脈で、そのさらに奥のビトリアからあの山々を超えてたどり着く。

スペインで最も人が訪れるワイナリー?マルケス・デ・リスカルへ

「行けばどこへ行けばよいか分かる」という指令の謎は、エルシエゴ近くまで来てすぐに分かった。土褐色のワイン畑が延々と続く景色の中で、ピンクとゴールドの色彩と異物感がすごい建物が嫌でも目に入ってくるのだ。

建物を見てピンときた人がいるかもしれない。かの有名なビルバオのグッゲンハイム美術館と同じ著名建築家、フランク・ゲーリーによるものだ。

2006年にできたこのワイナリー併設のホテルは、創業150年を超えるリオハ最古のワイナリーの訪問者を、10数年で20倍(2005年→2017年)、年間10万人を超えるまで大成長させる大きな一因となった(出典記事)。これは現地の観光案内所によるとスペインで一番の数字だと言う。

ホテル内のバーにて。テンションあがりまくりの妻
ワイン1杯5ユーロくらいだから町のバーより高いけどお金がなくても全然がんばれる
ホテルのテラスからエルシエゴの町を臨む。塔みたいなのは教会。町から川を渡った先にこのワイナリーはある

期せずしてTHE王道のところに行くことになったが、ともあれ大満足。ワインの味を詳しく評する舌は持ってないけど(美味しかった!)、旅コンテンツとしての体験全体としての完成度が素晴らしかった。

ワイナリーのまわりはちょっとした村みたいになっていて、ホテルのほかにも、小道をいくとショップがあったりカフェがあったり
テイスティングルームもなんだかイケてたんだよなあ
ショップもいい感じだった。ワインはもちろん、関連グッズ(オリジナルだけでなくセレクトされたバスクの商品も)も素敵にディスプレイされていた

急成長中のスペインワインツーリズム。リオハ牽引の一因はモダン建築

旅好きということと、ここ10年近くは仕事で日本の地域と関わることも多く、ツーリズムの観点でスペインから学べることを考えた。

まず、訪問したワイナリー、マルケス・デ・リスカルの年間10万人という数字は凄まじい。サイトを見るとツアーはテイスティングやつまみ込みで19€〜。さらにワインの購入を考えると、訪問人数全員が購入する訳ではないとしても、ホテルを除いてもすごい数字が見えてくる。(訪問者の商品単価を€22(根拠は後述)とすると10万人で€220万(2.6億円くらい)。ここは実際はもっと単価高そう)

ネットサーチレベルだが、スペインのワインツーリズムのスタッツを少し追ってみると、、、

●リオハのワイナリー全体で年間86万人(前年比+5.9%)の訪問者。これはスペイン一の数字であり、外国人比率36.8%もスペイン一。出典/The Rioja Regulatory Council “Wine Tourism Observatory Report for 2019“

●スペイン全体では年間220万人(前年比+5.6%)の訪問者。さらに経済効果は€4900万(前年比はなんと+15.2%!)。出典/Spanish Association of Wine Cities (ACEVIN)
※€4900万を220万人で割ってみると1訪問者あたり€22.3となる。

そしてリオハ・アラベサにおいては、訪問したマルケスデリスカルだけでなく、著名建築家によるすんごい建築のワイナリーが数多くある。凄まじい額の投資は間違いないが、これらがツーリズムの大きな成長要因であり、かつツーリズムを含めたビジネスの投資として判断がされていることは間違いない。

下記、リオハアラベサ内の代表的なイケ建築ワイナリーをflickrで漁ってみた。

ボデガイシオス/Bodega Ysios. 建築家はサンチアゴカラトラバ(flickr
ボデガスバイゴリ/Bodegas Baigorri. 建築家はイニャーキアスパイツ(flickr
ビーニャレアル/Viña Real. 建築家はフィリッペマシエレス(flickr

「誇り」がレガシーそして文化となり、地域をつくる

写真で見るだけでも、すごい建築の数々だ。ただ同時に、少し斜めに見ている自分もいる。「とはいえ儲かってる名門や金持ちが投資してるだけでしょ」。

(上述の4ワイナリーでは、マルケス・デ・リスカルとビーニャレアルはいずれも超老舗の名門、イシオスとバイゴリ2000年代前半にできた新規参入だ)

でも、こう思う。それは原因なのか、結果なのか。彼らが巨額の投資(もしくは調達)できる体力を持っているのは間違いないが、そうした投資を行うような経営をしてきたからこそ、現在その力を持つに至ったのではないだろうか(ワイナリー経営者についてまったく知らないけど)。

そんなことを考えたのは、「リオハアラベサは独自の道をゆく」というこの記事を読んだからだ。

この記事の話に入る前に、前提情報を。

スペインのワインを知る上で欠かせないのが、DOと呼ばれる「原産地呼称制度」、いわば地域の品質お墨付き印だ。地域ごとに品質管理委員会があり、厳しいチェックを通ったワインだけが「DO◯◯(地域名)」を名乗ることができる法的な仕組み。

DOリオハをはじめ、たとえばバルセロナ近くのDOカタルーニャやガリシア地方のDOリアスバイシャスなど、現在スペインには70以上のDOがある。そして、中で2地域だけDOの中でも特に高品質の称号である「DOCa」を名乗ることができるのだが、リオハはその2つのうちの1つの由緒あるDOである。

という前提をふまえ、Foebesの記事に戻る。そこで書かれているのは、DOリオハの一部であるリオハ・アラベサが、様々な逆風の中で独自DOの取得にチャレンジしているという話だ。つまり国際的知名度があり、かつ国内で2地域しか語れないDOCaのリオハとは別の、新しいDOの申請に動き出したのだ。

(ここからホント勝手な妄想)
それは経済合理性だけで説明できるものではない、短期的な視点による判断でもないはずだ。僕はそこに、作り手たちの「誇り」を感じた。

事業としても成功を続けている150年以上の老舗ワイナリーが巨額の建築投資を行っている姿と、地域全体の大きな傘の下ではなく新たに独自の道を歩もうとしている姿は、重なるものが多い。こうした作り手たちの「誇りのアクション」の先に残るものは、後世に伝わるレガシーであり、その積み重ねが文化となっていく。

外からくる人たちが惹かれるのも、訪れた時に心に残るのも、そういった魂とも言えるような人々の誇りや思いなのだろう。

とまあ色々と妄想を書いたけど、旅としても最高ですリオハアラベサ。ここはエルシエゴの隣町のラグアルディア/Laguardia。城壁に囲まれた旧市街がカッチョいいよ!!