マチュピチュからクスコの町に戻って約一週間。


(美しいアルマス広場。すり鉢状の町の中心にあるから、家々の明かりが取り囲むように光る)


でも意外にインカトレイルのメンバー、まだ残ってたよね。
ここで仕事してるエリックは分かるけど。
皆のおすすめのオージー料理レストランにて、宴。
男子も山じゃなくタウンで会うとまたかっちょいいもんだね。
(やっぱエリックはネルシャツね。アレックスはさすがに海パンじゃないのね)
(あれ?寒いの…私だけ?? さすが北欧の妖精。でもタンクトップって・・・。)

びっくりしたのは、真面目だと思っていたドイツ人(写真奥・相武紗季似)、エルフィが
まさかのアヤワスカ(:ものすごい幻覚が見える薬を飲まされる儀式)行ってきたって話。
あらま。いろんな意味でまさかの展開。
まあ、あれか、娘は母が思ってるほどいい子じゃない、って話か。

その他話題は映画の話、日本の銭湯の話、デンマークのバイキングの話、etc。

 

関係ないけど、クスコったら誘惑多し。
無駄にリャマのぬいぐるみ(体長1m)とか欲しくなるよね。買わないけど。
この日は近所のクラフト屋で革と織物のブーツに一目惚れ。約3000円。うーん!欲しい!
でも持ち運び重いし送るのも高いだろし…最後は勇輝の
「日本帰ったら、美和はきっとはかなくなる。(ドーーーン!)」
という予言めいた一言、その迫力に負ける。

 

 

 




さて本題。

私たちの宿の近所に、大きな屋内マーケットがある。

中は、土産物屋、庶民の食堂、甘味処、パン屋、チーズ屋、花屋、雑貨屋。
(パフェは並んでる中から好きなのを選ぶのがこっちの基本!)

その日、私は
こういう↑写真を撮っていた。

そんでマーケットの敷地外に出て、

こんな風景とか見ながら、勇輝からちょっと遅れて歩いていた。
ちょっとした小道。
右側がマーケット、左側は(2階建ての)ビルが並んでいた。服屋やら本屋やら鍵屋やら。
珍しく、カメラ(PEN)をバッグに入れず肩に斜め掛けしていた。
横を向いててふっと前を向いた瞬間、
それは起こった。

「シャッ!」

突然、ほんとうに突然、
白い液体が飛んできた。


頭上から、いや、斜め前からの気もした。
その、飛んでくる液体の隙間から、
こちらに向かってくる男の顔が見えた気がした。
しかもその顔は、「いやな雰囲気」を持った顔だった。
間一髪、液体はすれすれで顔を逸れて、私の後方に流れて飛んでいった。
ここまで、0.5秒。

何が起きたのか分からない。
上?と思って上を向こうとする、
その視界の中で、嫌な雰囲気を持った男がさらに自分に近づいてきたのと
もう2人か3人が身体の周りに寄って来た気配を感じた。

「あ、これ…、ダメなやつだ!!!」
急に血が逆流を始めた。
思考が追いつかない。
反射的に自分が、獣のような、ニンゲンじゃない何かに変わる。
と同時に嫌な雰囲気を持った男が前、
あと横に多分1人、たぶん真後ろに1人、が
ぐんっと一歩踏み出してきて私にぎゅうーとくっついた。
私の周りだけ満員電車状態が作られた形だ。
一斉に何かを大声で言い出した。
ここまで、1.5秒。

「NO~~~~~~!!!!!!!!」


3人がくっついた反動をそのまま押し返しながら私は叫んだ。
叫び声と同時に、右手と左ヒジと左ひざが出ていた。
『プロジェクトA』のジャッキーチェンかと思った。
3人を半ば宙に浮きながら、うおおおーりゃあ!って押し返した。
ものすごい声と形相で。多分髪は逆立ってたと思う。
<嫌!ほんとに、嫌!!!!!>
心の中から、言葉というカタチを成してないんだけど、こういうとにかく嫌悪が溢れてきた。

スタ、っという感じで、着地する。
3人は押されたその流れのまま早足で後ろの人ごみに消えていった。
私は身体の中の熱いものが収まらなくて
もう一度叫ぶ。「うおーーーーーう!!!!!!」。


急に震えが来る。
「今の、水かけ強盗だ。」
かなり以前、ネパールに居たときに聞いたことがあった。
急に水をかけられ慌てていると、わーわー叫びながら人が押し寄せてきて
「ええー??!何?何?」ってなってる間にバッグを切られ
中のものを盗られたって話。あれだ。
たぶん。


勇輝に追いつく。
「今ね、今ね、」
まだ血の逆流と鳥肌と動悸が収まらない。
ものすごい怒りも収まらない。
はぁ、はぁ。

・・・・
ああ、こういう感じ、2回目だ。
インドでもあった。これ。
バラナシの迷路のような↑こういう路地で、すっかり日が暮れてしまった時があった。
100均で買った小さいライトは壊れていて、
道に迷っていた私たちは宿へ戻ろうと
真っ暗な路地をいったんガンジス河に出るために急いでいた。

あ、ちょっと嫌な予感がする、と思った。
今もし口を塞がれて路地に引き込まれたら私、ヤバいことになる。
得意の妄想が炸裂しだす。
でも身体にゾクっとくるものがあって、前を歩く勇輝に声をかけようとした。
手をつないで歩こう、と。

そのとき。さーっと一人の男が、前を歩く勇輝に近づき
肩を組んできた。「ヘローアミーゴ」。
なんだよ宿の客引きか。
歩きながら、肩を組んだまま、勇輝と笑顔で言葉を交わす。
その、勇輝の肩の上の、奴の手が
「変だ」と思った瞬間、私の血は逆流を始めた。
すると手が角度を少し変えたかと思うと、すーっと背中に下り、
バッグのポケット(チャックが開いてる!)へ・・・・・・

「NO~~~~~~!!!!!!!!」


近所の全員がピクっとしたんじゃないかってくらいの絶叫、オタケビ。
自分の声のでかさに腰を抜かしそうになった。
男は手をポケットに入れる直前で身をひるがえし走って逃げていった。 

 

 

 

 


旅に出てから、出現したいくつかのキーワードがあるのだけど、
その中に、
「プリミティブ」というものがあるのです。
直訳すると 「原始的」 なんだけど、
イメージは、人間の持つ野性味、動物・獣としての部分、
生き物としての本能的な状態やエネルギー。


昔取材で、神戸まで内田樹教授を訪ねて行き
「痩せられない女は何がいけないと思うか」と
超くだらない質問をしたことがある。
そのとき意外にも、身体の鈍感・敏感の話になり、
武道のロジックやらを交え、結論的には
身体が鈍感な女、動きが雑な女は痩せられない、ということになった。

(あ、これじゃあまりに大雑把だな。。以下補足。
つまり、空気が乾いてるとか何だか風邪を引きそうとか、
今日食べたい物(=身体が欲している栄養分)とか、
身体のつぶさな変化をキャッチできる人、身体と会話できるような人は健康で美しい人だと。
また、そのような身体の敏感さは所作にも関係していて、
(カップを持ち上げる、などの)単純な1動作でも、普通の人よりも
動きのキメが細かくなる(身体のユニット数が多くなる、と表現された)と興味深い話をしてくださった。
で、敏感な女になるには? 武道をやるのもいいし、毎日の中に「ルーチン」をつくるといいと。
毎日同じ時間に同じ場所を通るとか、トレーニングをするとか。
天気や空気や体調の小さな変化が見える、日課を持つことだと。)

とにかくそのとき氏が強調しておられたのは、
現代日本人がいかに鈍感になっているか、だった。

(その後は、ある女性が地下鉄サリン事件の直前、列車に乗り込んだ瞬間
「なにか変」と思って乗るのをやめ、被害を免れたという話(都市伝説?)や
黒柳徹子さんがもう何十年もスクワット50回の日課を欠かしたことがない話を
伺って、インタビューは終了した。)

 


旅というのは、自分の中のプリミティブが試される場なのかもしれない。
日本は世界屈指の安全な国だけど、
安全ではない場所に行く、常識の通じないところに行く、
いろんなことが「わからない」ところに行く わけだから。

「たぶんこの人は悪い人」とか、
「この路地は、なんとなくやめたほうがいい」とか、
最終的には“情報” なんて意味がなくて
そういう 瞬間的に感じる「気」や「感覚」しか頼りになるものがない。
(一度も危ない目に合ってないので答えあわせのしようがないけど。)


とにかく、ニンゲンってすごいって思う。生き物として。
胃があって腸があって、脳のこの部分で記憶をして、耳の鼓膜が震えるから音が聞こえて・・・。
そういう、教科書で習った身体のメカニズム、じゃない話。
すんごく面白い。

 

東京であんなに腑抜けてたのに、
毎日めちゃくちゃなリズムで生活して
毎日めちゃくちゃな物食べ続けてたのに、
身体の真ん中に大きく  鈍 って書初めが貼ってあるみたいな人間だと思ってたのに。
旅に出てから見つかった、自分の野生。獣の部分。
「私の中にもちゃんと、プリミティブ、あった!内田先生!ありましたーー!」って。嬉しい。
私のそれは、かなり危機的状況に爆発的に出現するみたいだけど。

 

 

 

・・・・・かといって、
水かけ強盗に感謝する気は、ない!!!
おととい来やがれ、次はマジ、ぶっとばしたる!!!!
うおーーーーーーーー!!!!!!


以上。
もののけ美和がお送りしました。

(MIWA)