美和が次のファームに移るちょうどその頃、
妻の奮闘のことなど露知らず、
トレッキングを終えた僕は、町へ戻ってきた。

アメリカ大陸最南端の都市、プンタアレナス。
属する州の名前が「マゼラン&南極州」ってのがたまらない。
(ちなみに世界最南端の都市としては、マゼラン海峡を渡ったフエゴ島のウシュアイアが有名)


「最南端」「パタゴニア」「南極」といった名前からのイメージとはかけはなれた文明都市。
今までも大体そう、世の中って結構、進んでる。

実はこのとき、僕はすこぶるヒマであった。

トレッキング後、氷河や有名な山があるアルゼンチン側も行く可能性があったが、
トーレスで大満足&ずいぶん疲れたので、
アルゼンチンパタゴニアは次回(いつ?)に保留することにした。
その結果、美和と再会までのプランが無くなってしまったのだ。

そして思いついた作戦が、
題して「パタゴニアチャレンジ2011」、
何か新しいことにチャレンジしてみようと。

*

チャレンジ1:
1日100kmの世界~サイクリストの気分を体験しよう~

今までに何度か「サイクリスト」の旅人に会ってきた。
そう、チャリンコで何千kmも旅するという信じられない旅をする人々だ。

南米は「世界最南端ウシュアイアから大陸を縦断」
という凄まじいロマンの存在からか、サイクリストとの遭遇が多かった。
サンチャゴで応援動画のお手伝いをして頂いた高橋さん、
プンタアレナスの宿で一緒だったちょっと変わったアイリッシュ人、などなど。

興味を持ち彼らに聞いてみると、
本当に「コンディション次第」らしいが大体1日100kmほど移動するとの事。
歩きが時速4kmだから、チャリならゆうに時速15kmは出るだろう、
とすると100kmは6時間ちょいか、などと素人の皮算用をしながら、
「パタゴニアの大地をチャリで疾走」
という響きにひかれチャレンジを決意した。


宿はおあつらえ向きにレンタルチャリがあった。よく分からないけどコンディションも良さそう。


朝10時、出発。神は僕に味方し、すばらしき青空が広がる。
左手にマゼラン海峡を見ながら50km南の国立公園を目指す。


よくバスで移動中に息を呑むようなすばらしい景色が広がっているが、
チャリの旅は時間をかけてその景色を楽しみ、好きな時に写真も撮れる、
そして何より気持ちいいよなあ、なんて思いながら快調なスタートを切る。

最初の25kmのタイムは約1時間半【時速約17km】、なかなか良いぞ。

がチャリ初心者的な軽いトラブル発生。
パンツがチェーンにからまりズタズタに。パンツはタイトに。


その後は道が未舗装のジャリ道に変わる。
そして前方の雲がどう見ても怪しい。
案の定まもなくドシャぶりに遭遇、なかなかタフだった。

ただし雨以上に苦しんだのが、風。
思えば事前に聞いていたサイクリスト達が
口を揃えて言っていたのも風だった。
結構な向かい風で、チャリがおかしいのかと思うくらい進まない。
しかもジャリ道、上り坂、ときどき激しい雨。
結果この25kmはなんと3時間【時速約8km】 、現実を見た。


14時30分、目的地の国立公園へ到着。
釣りができるという事がなんとなく伝わる、なんともシュールなところだった。


とりあえず新規購入のバックパックと共に記念撮影し、
10分休憩をして、すぐに帰途につく。
すでにかなり疲れていたのと トーレスの後だと湖も森も感動が薄く、
散策する気にならなかった。


帰り道。行きが向かい風&上り坂ということは、
そう、帰りは追い風&下り坂という素晴らしきコンディション。
行きとのあまりの違いに驚いた。


天気は30分おきくらいに変わり、晴れていたかと思うとすぐドシャ降りになる。
ので、虹はかかりたい放題。

後半最初の25kmは1時間半【時速約17km】。
追い風&下り坂は最高だったが未舗装道路ということと、
かなり疲れていたので思った以上にタイムは出なかった。 なるほど。


そして最後の25kmは、ふたたび海峡沿いの舗装された国道に戻ってきた。
雨雲との追いかけっこに敗北しびしょ濡れになりながら懸命に駆け抜けるものの、
タイムは2時間半【時速10km】。
やはり未経験&おっさん化のツケは重かった。。。

そんなこんなで帰宅したのは夕方6時半。

感想。とにかく、くっそ疲れた。
それ以外言葉が見つからないけれど、
まあこれを繰り返し旅を続けるサイクリストへの敬意は間違いなく上がった。
それと風への恐怖も。
そういえばトレッキングテント生活も風が雨より怖かったなあ。

ちなみに最初に思っていた「好きな時に写真も撮れる」について。
出発直後や下り坂などグッドコンディションならともなく、
疲れるのでよほどの事が無い限り止まりたくない、軽く言うんじゃねえ、
というのが今思っていることです。

*

チャレンジ2:
シャケを釣りたい。 ~今あえて釣りがイケている~

チャリンコ100kmのチャレンジは、翌日以降は雨が続いたため、
それはしょうがないと半ばホっとしながら結局1日で終了となったが、
まだ時間がある。

そこで思いついたのが、釣りだ。

この旅でたびたび感じていた「知恵を使って生きる」、
道具や既製品に頼らない生活スタイルへの羨望。
今回のテント生活はその思いを強めたとともに、
山や川への興味という新しい方向性も追加する結果となったようだ。

「自分で山に入って魚釣ってサバいて料理できたら、めっさカッコいいやん。」

生粋の江戸っ子ですがこのセリフは関西弁で書かせて下さい。
とにかくそう思ったのです。
しかもチリはサケがめっさ釣れるらしいなんて聞いて尚更アガった。
サケ、鮭、サーモン!!

そしてやってきたのは、近隣に世界的にも有名な釣りポイントがあるという、
北パタゴニアに位置するプエルトバラスという町。


ドイツ人が150年前に「発見」し開拓した町。今は一大観光拠点。
ツーリスティだが美しい町並みと自然のバランスが素晴らしくお気に入りの町に。


町のツアーは激高かったのであきらめかけたが、現地に住むスイス人ピーターに出会い、
半日のプライベートツアーを激安でお願いできた。


町から車で20分。Rio pesca(釣りの川)という川が湖に流れ込むポイントへ。
遠くにはうっすらチリの富士山、オソルノ山が見える。


何枚この写真を撮ったことか。とにかく美しかった。


最初にピーターからレッスン。
釣りといっても種類がいろいろらしいのだが、いわゆるフライフィッシング。


こんな長靴借りて川にモモまでつかってキャスティング。まさに釣り!と興奮。


まったく知らなかったがなんとなく仕組みを理解した。
できるだけ遠くにキャスティング(ルアーを竿を使って投げる)し、
ゆっくり手元に戻していき、その間に魚がかかるのを待つ。
この繰り返し。
すこぶるシンプルだが、キャスティングの際に糸が空を切るピュウンという音の心地よさと、
遠くへ飛ばすのが結構難しくそれを試行錯誤するスポーツ要素があり、
まったく飽きることなく時間がすぎていった。


水はずいぶんキレイだったと思う。


地元の釣り人たちは終始ガヤガヤ話したり叫んだり、楽しそうだった。


1時間半ほどで休憩。ちなみに2人とも収穫ナシ。
だが持参したサンドイッチ&コーヒーは、
さしずめサーフ後のバーガー&ビールといったところだろうか、最高。

プエルトバラスにはピーターのようなヨーロッパ(主にドイツ)からの移住者が多く、
ホステルやツアー会社などをやっている。
彼らの考え方やビジネスの課題、人生について聞くのは非常に興味深かった。


食後、今一度オソルノ山を感じつつ入水。

直後、ピーターが5kgのサケを見事に引き当てた。

かかった時の興奮や「これはデカいぞ!」なんて声、
ゆっくり岸に上げていく際の緊張感、 軽いドラマだった。
ピーターに釣りの面白さを聞いたら「かかった瞬間の手ごたえ、興奮、アドレナリン」
と言っていたが、それも納得の一コマだった。

が、この時点でカメラのバッテリーが終了し絵が1枚も無いのが相当残念。


一方僕は、途中から簡単にキャスティング(釣り竿を使って遠くにルアーを投げる)
できる別の竿に変更したのだが、結局最後までてこずり、収穫ゼロで終了となった。。。

けど、いやー釣り最高。

今までどうも釣りに楽しさを感じることができなかったけれど、
川に半分身体をひたしてキャスティングするあの感じ、
自然をめいっぱい感じながら、じいと待つあの感じ、
全体を包む静けさと突如くる興奮、
いやーたまらんでした。
サーフィンとはまったく違う、新たな喜びを発見した感じ。

日本はどうやら世界でも有数の水産資源を持っている、
とのことなので(色々教えてくれてありがとう海先生!)、
帰国したら釣りキャンプ行きたい。絶対いく。みんな、行こう。

*

たいそうなネーミングではじめた挑戦のわりには
いずれも初めてのお使い的な体験記で終わってしまったけど、
てかお前それただ遊んでるだけじゃんなんだけど、
新たな世界を垣間見ることの喜びはこの上なかった。

パタゴニアの大自然と、チャレンジできるこの環境に感謝しつつ、
リアルチャレンジ中の妻にマイク戻します。