軽くなったのに、飛べなくなった。


ボテガTEMPSのテラス席。
空は晴れ渡り、広大な葡萄畑と、その先にアンデスの稜線。
私たちの中の「世界一のワイン」を見つけ、その香りを楽しんでいた。

自然に流れていたクラッシックだかのBGMが終わり、
たぶんCDを切り替えたのだと思う。
瞬間、グラスを持つ手が止まってしまった。
Jason Mrazの曲が流れ出したからだ。
If It Kills Me」、「Love for a child」。

別にどちらも旅の歌ってわけじゃないけど、
勝手に、涙がじんわり溢れてきた。
隣を見たら勇輝も同じだった。

二人でずっと広がる景色を見つめていた。


Mrazの曲は、私たちにとって特別で、
宮古島で結婚式をした頃の思い出そのものだった。
あの日のことが猛烈に蘇ってくる。
4年前の、幸せで幸せで幸せだった日。
皆の汗と笑顔。青空と夕焼けと星。
どこまでも未熟だった私たち。
その頃だ。旅に出ることを本気で決めた。
1年半後、東京を飛び出した。


友人たちに見送られ、片道チケットで
むっと暑いムンバイに降り立ったときのことが浮かんできた。
そこにはまったく旅慣れていない、ガチガチの私たちがいた。
必死でガイドブックを見るんだけど
何をするにも手間取って、パワーが要って、時間がかかった。
怖くて不安で、遠めからソロソロと間合いを詰めるようにしか
いろんなものに近づけなかった。
今思えばその足取りは重く、そのくせ無駄にバタバタして滑稽だった。
見えていた視野は小さな子供のように狭かった。
それでも、一瞬一瞬に驚きと感動が溢れていた。


旅が毎日になり、旅が生活になり、
日本ではない場所にずっと居て、2歳も歳を取ろうとしていて。
私たちは、気づけばムンバイの頃と別人かのように旅慣れていた。
ガイドブックなんて持ってなくても情報を集め
バスや電車を乗りこなし、ローカルフードで腹ごなしをし、
どこでも行きたいところに気軽に行けるようになった。
少しのパワーで何でも切り開ける自信があった。
怖さも不安もほとんど感じなくなっていた。
視野は広く、たくさんのものが見えるようになった。

でも、ボヤケたレンズで見てるみたいに
感動が薄れ、ふうんと流すことが増えていった。


軽くなったのに、
飛べなくなってしまった。


始めは気のせいかと思ったけど、徐々に焦っていった。
「あれ?どうやるんだっけ?」
お互い口にするでもなく、普通に過ごすフリをしながら、
「あの」感覚を取り戻したくて、楽しみつつも、どこかでもがいていたんだ。



ペルーの語学学校やマチュピチュトレッキング。
ボリビアのパーマやウユニ塩湖。
チリのビデオ作成や別行動のパタゴニアと農場。

自分の心と身体のいろんなところを刺激するかのごとく
さまざまな挑戦やら娯楽やら景色を投与し続けた。

「アフリカよりもっと大きな何か」が訪れるのを求め、待ち続けた。

ブログの文章は、心のもやもやが投影されたように、どんどん長くなった。


そして今、アルゼンチンでワインを飲みながら、
色んな場面を思い出し泣きながら笑う私たちがいる。


再び飛ぶ方法は見つからないままだけど、
どうして飛べないのか、その理由が分かった気がした。


「転がる石のような」旅をしたあとで、
私たちの中には小さな期待と驕りが生まれた。
気づかぬうちに、それは日を増して大きくなった。
あの輝いた日々は、転がろうと目論んでやったんじゃなく
訳が分からず鼻水出して泣きながら必死でやってたら
大きな何かの力で転がしてもらっただけなのに。
それを、後で知ったような気でまた転がろうとしても無理なのだ。
性悪じいさんが大判小判を期待して花さか爺さんと同じ場所を掘るのと同じだ。
それがつまり、飛べなくなった理由なんじゃないかと思った。

世界への期待と、自身への過大評価。
なあーんだ!またお前らか!と思った。



旅の始まりからずっと、対峙してきたもの。
長い間自分の中に染み付き繁殖した
毒のような菌のようなもの。
それは、傲慢であり、自我であり、偏見であり、欲だった。
折々に違和感を感じ捨てたいと願い、失敗と反省を繰り返してきた。
なのに、アフリカのあとで心の中に巣くった
それらの正体を見破れず、侵され、見失い、もがいて、
こんなに時間がかかってしまった。


いつか、素晴らしい出会いのためには、
アンテナを立て、周波数を出して、などと偉そうに語ったけど、
そこには謙虚さと誠実さと、ひたむきに何かに向かう気持ちが大前提だったのだと思う。
期待と欲とともに、ただただ「大物」を釣り上げようと
アンテナを高く広く張ったところで、誰もひっかからなくなった、
そんなの当然じゃないかと思う。
いい旅したいって自己満足のために、なんて出会えっこない。
もっと学ぶために、でも出会えない。
ただ出会いたい、でも出会えない。
自分は何を学びたいのか、どう成長したいのか、学んで何を成したいのか、
それが確かに手の中にある、もしくは掴みたくて懸命にもがいている中で
しかるべき時に縁が生まれ道が開けるんじゃないかと思う。

いや、そもそも、
あんな求め焦ってねじれた眼では、自分では偉そうに品定めしているつもりでも
何も見えていなかったのだ。見過ごしてきたのだ。
本当はもっとあっただろう素晴らしい人々との偶然の出会いの数々を。


旅慣れて、軽くなったのに、
飛べなくなった。
怖さや不器用さ、迷いやぎこちなさを脱ぎ捨てた代わりに、
私たちは、知らずのうちに
とても重いものを背負いこんでいたんだ。


そう知って今、
懲りないんだけどもう一度思う。
自分の汚さとの闘いを諦めず続けたいと。
少しでも「よりよき自分」を目指したいと。

そして言い聞かせる。
高みを目指すことは、
真新しく派手な体験をすることでも、社会的大物と出会うことでもない。
その真逆にあるものなのだ。
何かや誰かじゃなく、まず自分自身と向き合うことなのだ。

それは旅が終わってもずっと続く闘い。
でも苦しいものではない。
幸せを創り出すことにきっとつながっているから。


自分たちなりにいろいろ考えて話して、
少し視界が晴れてきたんだと思う。
すうっと身体が楽になって、自然に笑顔になっていた。
本気で叱ったあとに、ちょっと自分に優しくなることができたのかもしれない。

私たちの歩んできた道、
未熟さも悶々も失敗も後悔も、
そういうの全部ひっくるめて
誇りに思う気持ちと、大きな大きな感謝が沸いてきた。



なんて素晴らしかったのだろう。
なんて素晴らしいのだろう。
今までと、これからが、キラキラしだした。

こんな私たちに笑顔を向けてくれた人全員、
つたないブログを読み、見守り、励ましてくれた人全員に
心からのありがとうとHUGをしたくなった。





私たちは9月まで、もう一度、新しい旅を始めてみます。
転がるとか飛べるとか悩むのをやめて、
軽く、軽く。
スキップしながら、
口笛を吹きながら、
愛と感謝を胸に抱きながら。


(MIWA)

 

コメント / トラックバック 16 件

  1. まみ より:

    人々のステキ過ぎる笑顔の写真に
    日々、嫉妬さえ覚えます。。。笑

    私には見えないたくさんの苦しみ、辛さがたくさんあったと思います。
    でも、私は、ご夫婦のいつもクリアな感じ?が大好きです!

    私も自分自身ともっと、もっと向き合おう。。。

    あ、ゴールデンウィークに一泊ですが
    父親と母親と京都、行って来ました!

    今後の旅も
    より一層ステキなものになりますように。。。

  2. 香代子 より:

    お疲れさまでした。
    なかなか出来ない経験を2人で。貴重な時間。
    ここで一緒に旅をさせてくれてありがとう!

    日本で待ってるよー!!!

  3. tateking より:

    よく分かります。
    旅は終わり方が本当に大事だと思います。
    僕は旅の終わり方をいつも考えていたのだけど、二人がふとたどり着いた感覚が素敵だ。
    旅慣れると飛べなくなる。
    羽ばかりが大きくなって、羽ばたきが雑になってる感じもあります。
    ちょっと焦りすぎた。走りすぎてる今。
    ちょっと自分と向き合うきっかけを二人からもらった感じです。
    ありがとう。

    僕はもうしばらく旅を続けてみます。

    あなたたち二人と飲んだマラウィの夜が一番刺激的でした。
    また乾杯しましょう。

    引き続き良い旅を。

  4. kazma より:

    アイヌの言葉で
    「アイヌ ネノ アン アイヌ」って言葉があるんだって。
    「より人間らしい人間」それになることがアイヌの人たちの人生の
    目的なんだそうだ。
    俺はこの言葉がすごく好きでさ。自分は何者でもないけど、その
    姿勢を持ち続けたいよね。

  5. asami より:

    旅でなくても 日常生活でも
    頭でっかちになって どうにこうにも手も足もでなくなり
    自分で自分を縛り付けて動けなくなること 多々あります(笑)

    ほんとどこまで自分に期待してんだか どんだけ効率よく
    苦労せずにいいとこだけ取れるかを考えたりして

    でも最終的には明日には何が起こるかわからないこの世界
    なんとか生かされている我々は
    もっと心の声を聴いて
    思ったように行動してみることが 必要なのかなーと
    感じたりします。今こうしてだらだらコメントしちゃってるみたいに(笑)

    いつもそういったきっかけの一つだったんですよ このブログは!

    がんじがらめになったらもう ぽいっとそのなんだかわからないもの捨てられたら
    きっと軽やかに あるいは 悔んだり また
    どこかに転がりますよ♪

  6. BOOH より:

    くぅ~っ。

    沁みます。

    カトマンドゥの夜からず~っとHUG待ってま~す♪

  7. ayako ichihara より:

    初コメです。

    ワールドカップ前後のエントリーから、
    お二人と共に旅を楽しませてもらっていました。

    このブログにたどり着いた時、すぐに式の様子を見させてもらいました。
    あの式の写真を見て、グッと引き込まれ、今に至るのは言うまでもないです。

    今、あの時以来、2度目となりますが、改めて式の様子を見ていました。
    そう、Jason Mrazの2曲を聴きながら。

    目頭がジーンと熱くなる。

    1度目に見たときよりも、ずっとずっとお二人を身近に感じ、心から祝福している自分に気づく。
    それは、ありのままの姿をいつも真っ正直に、二人が見せてくれていたからだと思う。

    そして、式をひと通り見終わってから、
    その流れのまま、もう1度、お二人の最新のエントリーに目を通す。
    Jason Mrazの曲は流したまま。

    もうたまらなかったです。
    涙がこぼれ落ちました。

    素敵な旅を
    ありがとう。

    ホントにホントに、
    ありがとう。

  8. higeboin より:

    まみさん!コメント、ありがとう。
    クリアな感じ?どんなんだろう。でもなんかとっても素敵な響き。嬉しいな。

    京都!すごい!よかったねーーー!!!
    ご両親、どんなに喜ばれたでしょうね。
    「遥かな尾瀬」の投稿のときにくれたコメントから数ヶ月、
    ちゃんと叶えてしまう力、ちゃんとそうなった巡り合わせに感動しました。
    教えてくれてありがとう。とっても、とっても幸せになりました!
    MIWA

  9. higeboin より:

    香代子ちゃん!ありがとう!
    そうだね、貴重な時間だね、1日1日を、ありがたく、
    もっともっと楽しみまくるぞーー!
    日本で待っててね!会えるのが楽しみです。
    ってか、南米、来ちゃったら?
    大歓迎するよ!笑
    MIWA

  10. higeboin より:

    Tatekingさま、コメント、嬉しかったです。ありがとうございました。

    マラウイのほったて小屋のような食堂で、
    1時間かかる定食を待ちながら一緒に夢を語ったあの夜、
    私たちも忘れることができません。

    嘘みたいなことが起こるのも、
    飛べなくなるのも、バタバタするのも、
    どれもリアルな旅そのものなんですね。
    どの国のどの街にいても、「今」を精一杯感じることができたら、
    きっと、旅の終わりに笑うことができるのかな、なんて思います。
    また今日から前を向いていきますね。

    またいつか、
    世界のどこになるのか分かりませんが、
    いい顔で、再会できますように。
    そのときは、思いっっっきり乾杯しましょう!!!!!
    MIWA

  11. higeboin より:

    kazma、ありがとう。
    「アイヌ、ネノ、アン、アイヌ」。手帳に書いておくよ。素敵な言葉だね。

    欲張っちゃだめだね、焦ってもだめだね。
    飛び級も逆転サヨナラも裏口入学もないものね、自分を創って行く作業には。
    金も身分も人種も関係ないものね。
    なんかヒンドゥーやブッダの教えに繋がるね。

    いろいろうじうじ悩んで本当に恥ずかしいけど、
    少しでも精進したいよ。
    何者でもないけどね!だからこそね!

    ありがとう。
    MIWA

  12. higeboin より:

    asamiさん。グッとくるコメント、ありがとうございます。

    >もっと心の声を聴いて
    本当ですね。。。
    往々にして、心の声は大事なこと、すべきこと、本当にしたいことを喋ってるのに
    ちゃんと聴いてあげることができなくって。
    どうしてなんだろう。なにかがノイズになって邪魔するんですね、
    プライドだか諦めだか、執着だか・・。

    失敗しても悔やんでもいいから、軽やかに行きたいと思います!
    もっとちゃんと耳を澄ましながら。

    これからもどうか宜しくお願いします。
    MIWA

  13. higeboin より:

    BOOHちゃん、
    ポカラで偶然出会って、またどうしても会いたくなって、
    カトマンズで呼び出して、今も会いたい人よ。
    あの頃、二人は旅の終わりが見えていたのだよね。
    とってもいい顔していたのよ。

    HUG、絶対するよ!
    ぎゅううっとするよ!
    もちっと待っててね!

    いつも、応援ありがとう!
    BOOHちゃんのことも、いつも、応援してます!
    MIWA

  14. higeboin より:

    ayakoさん、初めまして、じゃないですね、ずっと見守ってくださっていて、
    本当に、ありがとうございます。
    嬉しくて、幸せで、心がぽっかぽかになりました。

    曲も聴いてくださって、涙まで・・。
    私のほうが、感動してしまいました。

    ありのまま、というかダメダメな所ばかりお見せしていますが、
    これからも頑張っていきます。
    ほんとに、ありがとうございます。
    MIWA
    PS就職活動頑張ってくださいね!

  15. 中澤 より:

    素敵な旅をありがとう!!。
    そして残りも良い旅を!!。

  16. higeboin より:

    中澤さん、ありがとうございます。

    見守ってくださったおかげで、私たちは歩んでこれました。
    本当に、そう思います。

    これからも、前を向いていきます。
    あとちょっとです。
    いい顔で、日本に帰りたいな。
    そのときはぜひお会いできますように。
    MIWA

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