7日目。

合宿も残す所あと2日。
いつも通り朝食を食べながらmtgで進捗を確認する。

村人フェスのAチームは、「今日は作業日」とのことでその作業項目を発表。
井戸&学校のBチームからは、井戸が順調に掘り下がっている進捗と
学校についても備品の調達と先生の面接や授業内容の調整など、
具体的なスケジュールの報告があった。

しかもタクとキョウは、合宿終了後も開校まで居残るとのこと、
本当に頼もしい男達だ。

食後、ラジェッシュ達が来て男性陣は部屋で会議を始めた。
女の子2人はフェスの作業に加え、今日の授業の準備がありと忙しそうだ。

美和も授業の準備。
東京から楽器の寄付を預かっていたので、
新たに音楽の授業をRISE-UPに導入するという大役を
何気に請け負っていたのだ。


(居なくなっても練習できるよう工夫を凝らし、資料をつくっていた)

 

それぞれが自分で判断してそれぞれの作業を粛々と進めている。
とてもいい時間だなと思った。

 

午後、それぞれが別々にRISE-UPに集合した。

気づいたら、みんな1人で町を闊歩して買い出しや調整をして、
1人で隣村の学校まで辿り着くのが当たり前になっている。
派手ではないが、確かな達成感を感じる。

 

今日の先生1発目はスミ。

実はインド集合前のメールのやりとりで、
スミは先生をやることについてギブアップ宣言していた。
英語も人前でしゃべるのも、自信がないので。。。と。
しかし読者から提供してもらった折り紙を題材にすれば言葉の壁はないから、
と折り紙の授業を提案し、大丈夫だいじょぶと元気付けているうちにやる気になったようで
一人で時間を見つけては子どもたちに教えるものを練習していたスミだった。

そして今日生徒の前に立ったスミは、英語はほぼしゃべってないのだが笑、
本当に堂々と授業を行った。
子ども達の目を見ながら、ゆっくり折り方を教える。
作品ができていそいそと見せにくる子に「ぐーっ!」と親指を立てるスミ、
嬉しそうにもじもじする子ども達。みんな優しいスミに褒めてほしくて一生懸命。
教室はほわーんとあったかい空気に包まれていて、
おじさん軽く泣きそうになりました。

 

2時間目はウメにバトンタッチ。
ウメ2回目の授業。教室を大きな絵で装飾しようという、アートプロジェクトだ。
床に新聞をしいて、布や画材が配られる。
ウメがリードすると、5つのチームに分かれた子ども達は
己の創造力を布の上で表現し始めた。
子ども達だけでなく先生たちもなんだか楽しそうだ。
顔に絵の具をつけてはしゃいでいた
プリンシパル(教頭先生)の顔が忘れられない。

 

最後は美和の音楽の授業。
まずはドレミの概念から教えようということで、
たて笛で音階を何度も吹きながら、
「ドーレーミーファー、、」と美和が歌い、復唱させるのを繰り返す。
続いて日本の友人たちが作って送ってくれた譜面を配り、「ドレミの歌」を一緒に歌う。
教頭先生は目を丸くして喜び、子ども達は音を全力でハズしながら、
でも口を大きく開いて気持ち良さそうに歌っていた。

 

授業後、翌日は笛の授業をしたいので、と教頭先生に笛を教えた。
どうしても難しいらしく失敗を重ねながらも、
何度も何度も真剣な表情で大の大人が笛を吹いている。
すると他の先生たちも目を輝かせて加わってきた。
時折「プヒャー」と間抜けな音を交えながら、教室にドレミの音色が響き渡った。

 

その後、チラシ配りとナンパもとい勧誘をする男性陣と
明日のフェスの備品準備を進める女性陣に分かれる。
日本寺で座禅の会があるからそこに行ってみると言うタクとキョウと別れ、
僕は1人町を歩きターゲットを探した。

日本人女子を見つけ声をかけたら、完全に怪しい人として鮮やかに拒絶され、
軽くへこんでいた直後に団体で来てくれるという学生グループと出会い、
複雑な気分で宿に戻った。

 

 

するとまたもや美和が難しい顔をして僕の帰りを待っていた。
今にも泣き出しそうな声で言う。

「怒っちゃった。どうしよう」。

授業の後、帰る途中でウメスミは道ばたの子ども達と仲良くなり、
何時間も帰ってこなかったそうで、
ずっとたまっていたものを含めて爆発させてしまったと。

「別チームで自分のプロジェクトに忙しい男性陣が、
フェスを成功させるためにって暑い中勧誘し廻ってくれてるのに、
なんで遊んでいられるの?
これは実力とかキャパシティの問題じゃない、
感謝できるかという、人としての根本の問題じゃないの?
二人には、感謝できる人になって欲しいの。
そして、自分たちのプロジェクトとして死ぬ気で頑張らないと、
この経験が後に残る本当にいいものにならないよ。
あなたたちのプロジェクトなんだよ、精一杯やりきらないと!」

いかにも美和らしい、入魂の説教だったようだ。

スミは涙をためてごめんなさいと言ったが、
ウメは難しい顔で静かにうなずいただけだったと。
悲しい気持ちで部屋を静かに出たと言う。

言ってしまったあとで、とても酷なことを言っているということ、
自分は何様だよってことで居たたまれない気持ちになったと。

ちょうど帰ってきたタクとキョウに、思わず打ち明けたら、
「二人なら大丈夫です。僕らもさりげなくフォローしますよ」と
優しく言ってもらったのだと。
話しながら、美和はボロボロ泣いていた。

 

僕には言えただろうか。

きっと言えなかっただろうな。笑って吸収してしまっただろう。
不器用だけど、これが美和の愛、本当に敬服する。
すぐには伝わらなくても、きっといつか分かってもらえる。

 

夜8時半。直前にラジェッシュたちに会いに行っていた僕と美和は、
みんなから10分ほど遅れる形でレストランに到着した。

最終日前日の、最後の晩餐。
ウメとスミは何事もなかったように明るく話をしていて、
キョウはいつも通りにぎやかに話題を提供してくれ、
とりあえずは救われた気持ちになる。

 

食事が一段落した段階で、最後の進捗確認を行うと、
いつもはウメの後に発言するスミが口を開いた。

「皆さんのお陰で、フェスティバルが本当に現実味を帯びてきました。
ありがとうございます。雨は不安だけど、とにかく明日、全力投球します!」

たった1週間だが、スミなんだか見違えて積極的な印象になった。

「もうここまで来たら、自分たちが楽しむしかないでしょう!」とタク、
「どしゃぶりでも、あきらめなかったらいい」とキョウワールド。

言葉数少ないウメが少し気になったが、
とにかくチーム全体が1つになって明日を迎えようとしている、
ポジティブで暖かい空気を感じていた。

 

そして、「今日のMOMENT」の発表へ。

キョウが
「最初注目されるのが嫌だったと言っていたスミが、随分積極的になったのが
今日のモーメント。」と口火を切り、
タクロウが
「孤児の部屋で授業の準備をしてる時のウメの子ども達へのとけ込み方。
「わっちゃーねーむ?」と近寄ってくる子ども達と向かい合い、手をとって、
「わっちゃーねーむ?」って。俺はこの距離とれんですわ。」
と続ける。
ここにきて女性陣をアゲるコメント連発の男性陣、
お前らデキすぎだって。

スミが続ける。
「学校で授業を終えたあと、私服になった子ども達がよって来て、
折り紙の本を開いて「これを教えて」って言ってきた時。
小さい頃、外国人の先生に何かを教えてもらった時のことを思い出しました。
今私がインドで先生やってるんだって、なんか凄いって感動しました。」

そして、最後にウメ。
真剣なまなざしで、ゆっくりと話す。
「インドに来てからずっと、一緒にきたかっちゃん(スミのこと)のことばかり気にかけてました。
彼女に問題がないように、彼女といい関係を保てるように。
でも今日美和さんに叱ってもらって、全然周りの事を見れてなかったと気づきました。
7日間もなんてことをしてしまったんだろう。皆さんごめんなさい。ありがとうございます。」

 

他のみんなには悪いけど、僕のこの合宿を通じてのMOMENTは、この時だったかもしれない。

初海外の、しかも過酷な環境の中で一生懸命戦ってきたウメとスミ。
ウメとスミと一生懸命向き合って、嫌われる覚悟で説教して、泣きながら後悔してた美和。
歳は一回り以上違う彼女達の心が、深く交わったのが感じられた、
さいっこうのモーメントだった。

 


(僕らが居ない間皆で買いに行ったと、揃いの指輪をプレゼントしてくれた。泣かせる)

 

 

翌日はいよいよ最終日。
ここ数日雨がちだったためてるてる坊主を吊るし、
祈るような気持ちで眠りについた。

 

(続く)