最終日、朝7時。
朝起きると、早くもみんなは
飾り付けや会場までの案内板の準備をしていた。
幸せをかみしめながら外を見ると、快晴とまではいかないが雨は降っていない。
よし、フェスは決行できそうだ。
朝食をオーダーし、顔を洗い、みんなと1日の流れを確認する。
10時半 来場者の誘導開始
11時 フェス開始
14時 RISE-UPで音楽授業とグッバイ挨拶
15時半 ラジェッシュ達と井戸の完成を確認
17時 シッダールタにグッバイ挨拶
18時半 カピル宅で赤ちゃん誕生パーティ(前日突然誘われた)
20時 最後の最後の晩餐
22時 僕ら夫婦は宿を出て、23時の列車に乗り込みコルカタへ
我ながらよく詰め込んだ。
とにかく今日で全てが終わる。
走り続けたインド合宿も、そして僕らの2年に渡る旅も。
女性陣とタクは、先に現地に入ってセットアップを開始し、
僕とキョウは、町から参加者を連れてくるという分担だった。
「じゃあ、会場で!」
ひとときの別れを告げ持ち場に向かう。
みんなの清々しい顔がたまらなかった。
(美和が撮った現地での準備風景)
集合時間の5分前。
キョウと2人でフェス告知の看板を抱え、マハボディテンプル前に立つ。
あっと言う間に、どう見ても暇なインド人たちに囲まれる。
が、
参加者らしき人はまだ1人も顔を見せない。
最低10人、できれば20人来て欲しいのだが……と焦りは募るが、
もうできる事は無いとひらき直り、インド人達の質問につきあう。
とその時、1人の背の高い白人が僕の前に立った。
「アー、イズ ディス ザ フェスティバル??」
キターーー!
イエス!YESYES!!
やったぜと横を見るとキョウの周りにも何人か参加者らしき人が。
3人、4人、おー5人はいる。
いやー良かった!どんどんこぉーい!!
その後も何人か来てくれ結局15人ほどが集まった。
よし、なんとか行ける!
キョウに会場のバプナガール村まで先導してもらい、
僕は最後もう少し待って追っかける形となった。
村へ向かうリキシャの中、気持ちよい風を感じつつ、
改めて深呼吸し、よしと気合いを入れなおす。
村の入り口では、誘導係のタクが興奮した表情で待っていた。
二人で会場へ早足で歩く。
「勇輝さーん!来ましたねぇ!結構遅かったんで心配だったんですけどー、
人でいっぱいのリキシャーが来た時、めっちゃアガりましたよお!!」
そーだろそーだろー、もうみんな待ってるよな、よおーしいくぞ!
会場では既に人だかりができていた。
飾り付けもされて、なんとかポく見えてるし、なんとなくショップもスタンバってる。
個別に来ていた数名を含めて、ちょうど20人の観光客を前に、
開会の挨拶をする。
「皆さん来てくれて本当にありがとうございます。
手作り感あふれる小さな小さなお祭りです。
子ども達によるヘナアートや、ヒンズー語教室、
似顔絵ショップ、女性達が作ったクラフト製品もあります。
是非、村人と多いにふれあって、楽しんでいってください。」
そしてカイラシュを紹介。一言挨拶してもらう。
「ここバプナガール村では、ハリジャンというカーストの外にある身分の人達が、
最も貧しい環境で暮らしています。私は10年以上、青空学校の開校や
女性の就職支援のためのソーイングセンター、クリニックの運営をしてきました。
今日は、よくぞよくぞ皆さん、この村に来てくれました。
是非、村の生活を感じてください、
そして年に1度の食事配給もありますので、一緒にカレーを食べましょう。」
拍手がわき起こり、満面の笑顔のカイラシュ。なんだか僕もほっとした。
そして、フェスティバルがスタート。
受付で入場料100ルピー(約200円)を集め、
子供達のショップで使う偽物のお金・「ハピー」(ウメスミが命名)を渡す。
募金箱にお金を入れてくれた人も結構いた。
4つのショップにはあっと言う間に人でいっぱいになった。
一番人気はヘナショップ、小学生だがなかなか上手にデコレーションをしてくれる。
ヒンディ語教室にはここの小学校の先生も加わり、たまに爆笑が起きている。
ソーイングセンターの女性たちによる布製品ショップも、ちらほら商品が売れ始めた。
あとは子供達と写真を撮る人、遊んであげる人。
美和は後ろの方で勝手に何やら始めた。
村の女性達にマニキュアを塗ってあげるサービスのようだ。ここも大盛況。
ウメとスミはせわしなく歩き回り、何かあるとすぐ子どもの所へかけより
何か一生懸命話をしている。
僕は一歩下がり、井戸を囲った塀の上に腰をかけ、村の様子を眺めた。
広場いっぱいに人だかりができていて、村人の中には外国人が混じっていて、
その外国人たちに子ども達が生き生きとした表情で話しかけている。
それを見ている村人達は笑顔であーだこーだ声をかけていて、
その横にいるカイラシュと医師のジャナルダンは見た事の無いほど上機嫌だ。
見上げれば青い空と太陽。
それはそれは、本当に素晴らしい風景だった。
ふっと緊張がとけ、猛烈に感動がこみ上げてきた。
ウメの思いつきがいま、みんなの力を合わせてこうして形になったこと、
村の人達もなんだか楽しそうにしていること、たまらない。
よし!やったぞ!最高だ!
僕は成功を確信し、しばらく1人で感慨に浸っていた。
その後の記憶は、なんだかファンタジー加工された映像のようだった。
フェスは盛り上がり続け、予定を大幅に遅れてカレーが到着し、
その配布に子ども達が恐ろしい勢いで殺到し一瞬ひやりとし、
皆で葉っぱで作ったエコがすぎる皿に載ったカレーを手で食べて、
最後は歓迎のダンスを躍ってもらい、みんなの笑顔に包まれ閉会した。
後片付けや参加者のケアを他のメンバーに任せ、僕と美和は急いでRISE-UPに向かった。
遅れてしまったので帰ってしまってるかもしれないと思いつつ、
辿り着いた校舎の入り口。
すると、2階の教室から縦笛の音色が聞こえて来た。
一瞬小学校時代にトリップする、懐かしい響き。
先生達は、帰ってしまうどころか、昨日教えた笛を練習しながら、
健気に僕らを待っていたのだった。
美和と二人、めちゃくちゃ嬉しかった瞬間だった。
そこから約1時間、美和は懸命に笛を教え、紙の資料でピアニカの鍵盤の読み方を教えた。
実はインド内の郵便の関係で、段ボール1箱分のたて笛やピアニカの到着が
僕らの滞在中に間に合わなかった。非常に残念だったけれど、楽器をかき集めて送ってくれた
ブログ読者の須藤さんとそのご友人に心からの感謝を申し上げます。
驚く程の興味とやる気と成長を見せてくれた先生たちは、
楽器到着後の授業実施を約束してくれた。
RISE-UPを出ると、カピルがトラクターに乗って待っていた。
合流していた他のメンバーと共に、タクとキョウのプロジェクトでつくった井戸を見に行く。
轟音の中凄まじい振動に30分ゆられ現場へ到着すると、
顔に泥をつけたラジェッシュが勇敢な顔立ちで泥水の湧き出る井戸の前に立っていた。
「ありがとう水が出たよ、これでキレイな水を村人が使える」とラジェッシュ。
タクが肩を組んで労力をねぎらう。
くっそカッコよかった。
次の村へ。移動しながら、たくさんの村人がこちらに手をふってくれた。
皆でトラクターの荷台の上から、大きく手をふった。バイバーイ!
「ああ、終わるんだ」。
このときやっと、合宿の達成感と、ブッダガヤとの別れの寂しさを
実感したような気がする。
いやほんと、よく頑張ったよなあ。
(右側にいるのは、フェスに来てくれた客で、ドイツ人のベネディクトとフランチェスカ。
彼らは僕らの活動に興味を持って、見に来たいとついてきたのだ。
そして彼らはこの後もラジェッシュやライズアップを支援してくれることとなる)
(僕が無性に好きな写真。ラジェッシュとビジェイの信頼するおっさんと。いい顔だ)
が、最終日はまだまだ終わらない。
再びトラクターに乗って今度はシッダールタの元へ。
屋上で彼の活動と将来の展望についてのプレゼンをパソコンで見せてもらった。
途中で雨が降ってきて、孤児達の部屋に移動し、停電の真っ暗な中、ベッドの上で続きを見た。
ありがとうこれからも宜しく、固く握手をして別れた。
次は、カピルの家だ。
数日前に赤ちゃんが生まれたので、ベイビーバースのお祝い。
大雨のもと、超えられないほど大きな水たまりに足をずぶずぶ入れて進む。
相変わらず停電で真っ暗な中、カピルはカレーを用意して待っていてくれた。
チキンカレーと、前回美味しいと感じたオクラのカレー風味炒めだった。
カピル家のスパイスはやっぱり刺激的がすぎたが、肉は柔らかくてとっても美味しかった。
雨の中リキシャーを呼んで宿に戻る途中、カイラシュに電話した。
今日の売り上げを渡さなくてはならない。
宿についてすぐにお金を数える。
参加者からの参加費約200円×20名と、寄付箱に入っていた約4000円、
布製品ショップの売り上げで約2000円、ちょうど1万円の寄付になった。
間もなくカイラシュと、息子と、何故か姪っ子と、医師のジャナルダンが来た。
1万円は、スミの想いで、是非ソーイングセンターにミシンを買ってとお願いした。
20人の生徒に対して2台しかミシンが無いのを見ていたのだ。
カイラシュは「オーケーオーケー」といつものようにうなずき、
ジャナルダンは「君たちはスゴいことをした!本当にありがとう!」を繰り返してくれた。
全てが終わったとき、もう21時をまわっていた。
走りきった僕らは、もうなんだか分からないテンションだったが、
とりあえずビールだけ調達し、乾杯をする。
みんな話したい事がいっぱいなことだけは分かるのだが、
何から話していいか分からなかった。
気づいたらもう10時になっていた。
駅に向かうタクシーが外からクラクションを鳴らした。
最後まで慌ただしかったが、皆とがしりとハグをして、車に乗り込んだ。
去り際にウメが手紙を渡してくれた。
タクシーの中、僕らはしばらく会話ができなかった。
あまりに色々な事がありすぎて頭はぼーっとしていて、
疲労で身体はじーんとするのを感じながら、
月明かりに照らされたインドの田園風景を美しく思った。
ふと、手にはウメからもらった手紙があることに気づき中を開いた。
「大切な人たちに気持ちを伝えることの大切さを
お2人から学びました。こんなに感謝の気持ちでいっぱいになって、
正直自分でも引くくらい驚いています(笑)。」
美和は目に涙をためて、何も言わずに寄りかかってきた。
(続く)