いつか息子ができたら、ここに連れてきたい。
そう思った場所がある。

思わず「少年の島」と名づけた、
リオデジャネイロからフェリーで20分の
ニテロイ島。

 

ここには、男の子がきっと好きなもの、
男の子に見てほしいものが詰まっていた。

 


ホワイトベースみたいなかっちょいい船に乗り込むところから冒険は始まる。


右を見れば、海にせり出した空港に
ジェット機がじゃんじゃん離着陸する。


左を見れば、小奇麗な客船やらでっかいタンカーやら今にも壊れそうな漁船が
それぞれ沖を目指して進んでいく。

 

島に着き、海沿いを歩く。
風の音と鳥たち。


右手には、不思議な小島。
コンクリの頼りない橋があり、何件かのお屋敷が見える。
ホテルなのか、お化け屋敷か。もしかしたらこの小島ごと
誰かのものなのか。たくさんの空想の物語ができそうな。

 

 


左を見たら、この光景。
「な、なに?これ」。一瞬ポカンとして、それから
目を見開いて、ワクワクする。なんだか面白いものがある!!!

 

坂を駆け上がり着いたのは、
リオ出身の建築家、オスカー・ニーマイヤーの建てた美術館。


遊び心満載。と言っても、私が考えられる範疇の「遊び心」とは次元が違う。
ちょうど社会科見学の小学生が来ていた。

 

 

館内へ。


変な形。ありえない曲線。
(関係ないがひげはいつまで伸ばすつもりなんだろうか)

 


展示は、はっ!これだけ!という感じだったが、
建物全体がなにしろ不思議な気持ちにさせてくれるので満足してしまう。

 

 

また島の中をぶらぶら歩く。


釣りをするおじさんたち。


石油コンビナートにタンカーに、
橋に車に飛行機にビルに山に雲に海に。
視界の中に、ありえない数のかっちょいいものがMIXして入ってくる。

 

この島は男の子のためのものだなあ、と思った。

単純に、男の子は乗り物が好きだから、だけじゃなくて
少年には、ニーマイヤーの建築のような「わけのわからないもの」、
この島に詰まっているような「なんだかワクワクするもの」を見ることで、
自分の中に市販品ではない定規を準備してほしいのだと思う。
東京でしか通用しない30センチものさしじゃなく、
世界のどこへ行っても、さらに余るような、でっかい巻き取り式のメジャーを持ってほしい。
いや、巻き取り式じゃなくていい。変な形の、見たこともないようなメジャーがいい。
街の設計は、乗り物は、建物は、
さらには政治、教育、生き方、あらゆるものは、
必ずしも今ある形じゃなくてもいいのだと、
そういう感覚を持ってもらえたらいいなと思う。

でもそれは口で教えても伝わらない。
だってまず私がそんな変なメジャーを持てていないから。

 

この島だけじゃない。リオにはスケールの違う、変なものがいっぱいある。
土地の切り開かれ方(自然の残され方ともいうかな)と都市設計の発想、
あとは人種の混ざり方が全然違うから、やっぱり東京とは大きく違う。圧倒される。
こういう場所で育つ子供は、きっと持ってるものさしが世界の他の都市とは違うと思う。

大きく羽ばたいて、未来の世界・地球をひっぱってほしいな。
そのとき、日本の子たちも一緒に飛べますように……それには何が必要なんだろう。

 


美術館にいた、小学生たち。

 


取り囲まれた私たち。好奇心いっぱいの子供たち。
これも社会勉強と思ったのか、引率の先生は離れて笑って見ている。

質問の嵐。
「どこから来たの?」「どこへ行くの?」「ブラジルは好き?」
「~って日本語でなんて言うの?」「空手できる?」「サムライってまだ居るの?忍者は?」
「なんでひげが長いの?」「日本人ってこんなくるくるの髪なの?」

って聞かれても、ポルトガル語ができない。
授業で英語もスペイン語もやってるはずだから
英語かスペイン語で答えるんだけど、皆分からないようだ。
(まあ、自分の中学生のときを想像したら分かる。授業でやってようが
外国人と会話できる子なんてクラスにいなかった)

 

そんな中、2人の少女が輪の中から飛び出してきた。


彼女たちはちょっとスペイン語に自信があるらしく、私が答えるつたないスペイン語を
周りの皆にポルトガル語に訳してあげ始めた。
敏腕ちびっこ通訳が誕生したわけだ。

そのときの、彼女らの表情!!
なんと表現していいのか分からない。
皆の注目を浴び、少し緊張しつつ、得意げで、キラキラしていたんだ。
二人が競うように通訳していく。訳が終わると、「次は?」と私を見る。

二人に助かったよ、ありがとう、とHUGをする。
頬を紅潮させ、嬉しそうに笑っていた。

こんな表情が見れるのだったら、
こんな表情をつくり出せるとしたら、こういうことこそが教育じゃないかと。

きっと、これから彼女らは
スペイン語の授業をさらに頑張るだろうなと思った。
もしかしたら通訳を志すかもしれないなと。

 


久しぶりに、自分が持っている何十倍、何百倍の
好奇心というエネルギーを目の当たりにした。

子供たちと別れてから、
今度は私がドキドキしていた。

 

私たちは旅の途中で、学びの最中だ。
心の中に、少年少女の部分を持っていたい。
もっと好奇心旺盛に、もっと自由に、もっとワクワクしたい、
まだまだ負けねえぞ、と思う。

でも確実に、
私たちは次の世代に何かを渡す世代になっている。

そのことをショックとともに、
でもそのための大きなヒントを希望とともに
感じさせてくれた気がする。

風を受けながら、びゅんびゅん頭上を行く飛行機を眺めながら
少年の島を後にした。

(MIWA)