合宿3日目。
本格的にプロジェクト遂行へ向けた調査と調整が始まった。

村人フェス実施へ向けたAチームは落とし込みへ向けて動き出す。
まず現地側の承諾を得るとともに、子ども達のショップ内容を確定させねば。
当日までのTODOや調整事項を整理して、夜カイラシュに会いにいって、
合意を取れたら明日現地に行こう。

必要な備品はポップ的なもの、飾り付け、寄付の箱、
それに商品を置く敷くマットみたいのも必要だけど、
それは村にころがっていた竹のベッドみたいのを使えるかもしれない。
入場は100ルピーくらいかな、あと食事も出してあげたい。
それに会場レイアウトも決めなきゃ、で、お客さんを集めるのにチラシが必要だ。
地図とショップ内容と当日の役割り分担とタイムスケジュールと、、、。


(毎朝の進捗確認は朝食を取りながら)

若いウメとスミをケンゴがまとめている感じだろうか。
サラリーマンのスキルを発揮し、どんどんTODOを書き出し資料を作っている。
頼むぜプロマネ。
ただし急にやることの大変さが現実のものとなり、
しかも異国の地でゼロからのイベント設計、
随分と戸惑いながら進めている感じだ。

色々突っ込みたくなるがとにかく口を出さないように見守る。
心配性の美和はなんだかずっとヤキモキしているようだった。

 

一方、様々なアイディアが出たものの企画を絞りきれなかった
Bチームのタクとキョウ。

各案の実現性をもっとヒヤリングしようと、ラジェッシュ達のところへ行くと言う。
さすが国境なき医師団&アジア各国でマッサージ修行のコンビ、
行動に迷いが無くガンガン進んで行く感じだ。

mtgには同行しなかったが、帰って来た際の表情から
手応えを感じている様子が伝わって来た。
とりあえず価格や想定効果、実行可能性やスケジュールなどをまとめた
各案の比較表を翌日夜までにつくるように、とさらりと高めのボールを投げる。

 

夜、ケンゴが熱を出した。
インドに来るために無理をして仕事を片付けた疲れが出たのかもしれない。
いや、カレーのせいか?いや、インドそのもののせいか…?
仕方なく、ケンゴを除くメンバーで、フェスの承諾取り付けと各種調整のために
カイラシュの元へ向かうと、
道中、お祭りだかなんだかでイカれた表情で躍り狂うインド人達が道を占拠していた。


(凄まじいノリノリっぷりだった。うん。)


(ノリが過ぎてケンカしてどなりあってる輩も。ただしキョウ曰く
「インド人は手は振りあげるが、結局絶対に殴るまでにはいかない」とのこと)

 

カイラシュ宅に到着し早速打ち合わせを開始する。
ウメとスミがフェス案を提示し、用意していた質問をぶつけた。

英語がかなり辛そうで1つ1つ単語を確かめながらの会話を、
僕と美和だけでなく、タク・キョウあわせ親の目線で見守る。
場全体が、ゆっくりでもたどたどしくても「いいんだよ」オーラに包まれ、
ウメに頼り切りと思えたスミも、徐々に口を開いていった。


(うん、いいぞいいぞ。 最高だった光景の1つ。)

 

カイラシュはフェス案に驚く事もなく「よしやろう」とうなずいた。
ゴザや商品を置くベッドを用意する事、
子ども達のヘナアート、似顔絵、ヒンズー語ショップも、
ソーイングセンターの女性達による商品販売のショップも、
全部「オーケーオーケー」と。

さらに去年僕らが体験した、全村人へのカレー配布(炊き出し?)を提案すると、
「昨年までのスポンサーのイダンが来れなくなり、できていなかったんだ」
と、今年も年に1回のご馳走を村人に振る舞える事をすごく喜んでくれた。

こうしてトントン拍子で話は進んだ。
何も考えていないのか自信があるのか分からないがカイラシュも全面合意してくれ、
5日後、僕らの滞在の最終日でのフェス実施が決定した。
うまく進んでいるのだが、なんだか不安なのはなぜだろう。。。

 

mtgが終わると、2階へ通された。食事をご馳走してくれるとのこと。
気づいたら、銀行に勤めているというカイラシュの弟さん、
それと村の案内を一緒にしてくれた息子さんがスタンバっており、
テキパキと椅子や皿を並べてくれる。
一同わくわくして待つ。

そして10分と待つことなく食事がサーブされるのだが、
面白いのは、弟も息子も一緒に座らずに横でニコニコしながらおかわりの要請を待っている。
何度も「一緒に食べよう」と誘うのだが頑に座らない。
インドでは年長者を敬う文化が徹底されており、
家長であるカイラシュとその客人の席に一緒に座るなんてとんでもないというのだ。

ちょっと恐縮ではあったが、なんかそういうのいいなと思った。

 

それともう1つ、個人的にツボだったのが、カレーについて。
カイラシュは自身もある程度資産がありそうだし
弟も銀行員、家も立派だし、恐らくお金はある方なのだろうが、
毎日、365日やっぱりカレーを食べるという。
しかも同じ味、同じ具。
インドではスパイスは自家製なので、さすがにスパイスの配合を変えたり、
ご飯やプーリ(揚げパン)などを変化させるのかと聞いてもNOと。

日本料理に限らず中華にイタリアン、フレンチやアジアンに
メキシカンまで何でも食べる日本人はどんだけ贅沢なんだ、
というより更に言えばインド人どんだけカレー好き!?と思った瞬間だった。


(カイラシュ、お家の皆さん、ありがとう!!!)
奥さんはケンゴのためにお粥を持たせてくれた(カレーなし。ホッ)。

 

一日はまだ終わらない。
宿に帰り、休んでいたケンゴを起こして呑みながらmtg。
案を3つに絞って詳細ヒヤリングをしてきたと言う、Bチームの話を聞く。

①リキシャー購入による無医村への交通手段の提供。

改めて確認をしたが現場のニーズはありそう。
近隣の町や村の診療所では無料で診てもらえる所があるのに、足が無く行けていない。
1台のサイクルリクシャーは約2万円。懸念事項は「村のみんなのもの」とした際の
利用管理や修理メンテの手配。それと雨期は道が悪くなり1年のうち半分は利用できないこと。

②井戸の新設による村の衛生面の改善。

リキシャーが村の健康・医療における病気発症後の対処的対応とすれば、
キレイな生活水を提供するという、予防的意味あいのこの施策。
1つの村の人口が1000人前後、個人で井戸を持っている人も複数いるので、
1つ井戸があるだけでも随分意味がありそう。1つ掘るのに約1万円。
古い井戸を改修する案も検討したが結局新設の方が安いし効果が高いとのこと。

③学校の無い村に青空(木の下)教室開校。

場所はちょうどよい所があるとのことで問題なし、
先生は村の大人を毎日午前中のパートタイム的に雇えるとのことで
月給3000円でいける。ほとんどの村人は農業従事者で会社勤めなどしておらず、
大学まで出ている人もいるので探せばいるだろうと。
黒板やノートなどの備品も、小額で用意できそうとのこと。

なるほど、いずれもトライする意味がありそうだし、実現性もありそうだ。

中でもタクは③青空教室に思いが強いようで、
「みんな学校が無い、でもお金が無いからどうしようもないと言っている。
ラジェッシュも、ちゃんとした建物を建てることばかりイメージしているようだ。
でも、小額でもできることを、とにかく始めてみるという姿勢を伝えたい。
そこから何かが変わるかもしれないから。」

とアツく語り出すと、ウメが呼応する。

「私は昨日現場を見て、純粋な気持ちで「何かをしてあげたい」と初めて思ったんです。
タクさんキョウさんが、純粋にきれいな水をあげたいとか、
子ども達に教育をあげたいとか、そう思ったのが伝わってきました。」

 

グっときながらも、気持ちを抑え皆に問いかける。
何かをするかしないか、その判断基準は何だろう?

「勇輝さん美和さんはHOPEとブログに書いていて、
読んでいて納得感があったけど、今やろうとしていることがHOPEかは分からない。
その前にとにかく最低限のことをしてあげなきゃという気持ち。」とタク。

「お金を預かってる訳だし費用対効果も考えなきゃいけないと思う。
でも本当にそれかな?と思う。最低限の説明責任は果たせるものにするけれど、
判断基準は、最終的には実行者である自分たちが決めればいい。
僕らがパッションを持ってやれる施策をすべきなんじゃないか。」 とキョウ。

 

旅が好きだなあと思う瞬間は多くあれど、
この時ほど思ったことはそうそうない。

現場に行って、5感6感総動員して目の前に広がる世界を体内に入れこむ。
すると今度は自分の世界が変わる。
今回参加してくれたみんなが、正しいとか正しくないとか、
これはありとか無しとか、そういったバイアスから解き放たれ、
借り物ではない、自身の言葉でインドの村落の状況に対して思いを述べている。

僕ら2人が旅を通じて感じていた何かを、
こうして他の愛すべきメンバー達と共有し始めている喜びを噛み締めた。

 

その後議論を続け、結局3案のうち、
本当にどこまで活用されるか不確定要素の多い①を除き、
井戸と学校、2つの施策を実施する方向で
話はまとまり、一同充実感とともに就寝した。

 

(続く)