さらに引き続きカンファレンスから。
Tourism as a driver for social change
僕も登壇させてもらったセクション。経済学部の教授がモデレーターで、パネリストは僕の他、各国の女性を訪問しワークショップを行う旅をプロデュースするFocus on Woman創業社長と、先のセッションで紹介したemzingoのパートナー。それぞれの活動紹介とともに、観光が地域コミュニティ(基本的にはアフリカや南米、アジア)に与える影響や、サステナブルな観光のあり方について意見交換した。
(なんかそれっぽいよね。分化会で教室で行われたけど4-50人はいたかな)
Focus on Womanはsexツーリズムやお金目当てに伝統文化を誤って商品化する課題を並べた上で、その多くは旅行会社にあると指摘。業界としてのEthic Code(倫理規範)設定や、観光業界においてプレイヤーが極端に少ない女性の活用による多様性の担保がソリューションになると話した。
emzingoはやっぱり現場感があったんだけど、地域コミュニティによる観光活用の好事例としてペルーのタキーレ島を挙げていた。ペルーとボリビアの間にあるチチカカ湖に浮かぶ島で、ホテルをつくらずホームステイサービスをコミュニティとして作り上げた。家間では競争させず、順番に全部の家にメリットが行くようにするとともに、個別の寄付とか商売を禁止することで島としての質が保たれている。こうしたコミュニティパワーのエンパワメントが鍵になるとのお話で、この島は人口増加しているそう。ちなみにタキーレ島は僕も行ったんだけど、付け加えるなら独特の柄の織物でも有名。ただし地域資源だけで競争していないところがポイントなんだろう。
参考:旅の時のブログというか居候日記。久々見たがなかなか良い。
http://h-b.asia/2011/02/27/taquile/
僕からは「消費者、および地域コミュニティ、双方が”消費的な旅行”から抜け出す事」が目指す姿だと提案した。消費者サイドの意識転換ではまさに僕らが実践しているソーシャルトラベルについて(従来型の旅行から、自分のコンフォートゾーンから飛び出し、地域にとけ込み、何かしらの価値を旅行先の地域に残すためにアクションする旅)、地域コミュニティ側では東北復興現場の取り組みとして、地域資源としての「人」へのフォーカス、そして一時的な旅から関係性を構築するengagement tourismへの流れを紹介した。
ソーシャルトラベルが思いの他ウケたのがめちゃくちゃ嬉しかったんだけど、実はそれ以上に手応えがあったのが、東日本大震災について。冒頭で改めて数字などを紹介した上で「敗戦と同じくらいの歴史的な出来事。こうした変化の狭間からイノベーションが生まれる」と話したら、会場の空気がグっと変わって真剣なまなざしに囲まれた。後で色んな人が話しかけてくれたけど、みんな「すっかり忘れてしまっていたけど、もっと注目しなくては。日本のリカバリーについてもっと知りたい」と言ってくれた。あの震災が世界的に大きな意味を持つ出来事であることは間違いない。でも逆に言えば、災害復興・チャリティ以外の文脈における発信ができてないんだと強く感じた。
最後に:日本の社会課題の世界的位置づけ
随分と長くなってしまったこのシリーズ、最後にまとめとして所感を。
【注目度】
まずは何と言っても、ソーシャルセクターに関する注目の高まり。実はこのカンファレンスの数日前、バルセロナにあるESADEという別のビジネススクールでも、食べる通信をテーマにイベントを開いてもらっていた。プライベートなイベントにも関わらず30名以上が集まり、質問やディスカッションも活発だった。今回のカンファレンスは、ieスクールのイベントでは最大のものらしいし、主催したソーシャルビジネスを研究するNet Impactというクラブ活動は、ワールドワイドのネットワークがある(ESADEのイベントもNet Impact主催)。
(各セッション、携帯見たり寝てる人は皆無。参加者の熱はかなり高かった。にしてもヨーロッパBスクールは国籍の多様性がすごい)
【ビジネスとの融合】
あとは、これは特に最初の記事で繰り返し書いたけど、ビジネスとの融合。そう言えばちょうど機内で読んでいた、シリコンバレーを席巻するpaypalマフィアのドン、ピーターティールの本「zero to one」でも社会起業に関してこんなくだりがあった。
慈善目的のビジネスというアプローチの根っこには、営利企業と非営利組織は対極にあるという前提が存在する。・・・・社会的目標と利益目標の板挟みは成功の妨げになる。「社会的」という言葉自体のあいまいさはさらに問題だ。・・・進歩を阻んでいるのは、営利企業の権威と非営利組織の善行とのぶつかり合いじゃない
企業のブランディング戦略においても、複雑化する社会課題を解決する現場においても、ビジネスxソーシャルの垣根がなくなっているのは明確なトレンドだ。マッキンゼーもNPOをつくった。この中で僕らは5年10年先にどんな未来像を描くべきだろうか。
【small is beautiful】
確かimpact investmentのセッションで、フランスのコンサル会社の女性が言っていた。smallサイズで始めることが、インパクトへのキーだと。インパクトとsmallは一見相反する気がするが、非常に真実だと思う。大きな規模を求めるがゆえに現れる課題は多いのだ。
マッキンゼーの人が言っていた「CSR部署はなくなり全ての部署がソーシャルインパクトを考えるのが当たり前になる」というのもつながると思う。それぞれが可能な範囲=small規模で社会的価値を追求する積み重ねは、巨大な財団や巨大NGOによるスペシャルプロジェクトよりも、より大きな社会的インパクトを生み出すかもしれない。今やっている「食べる通信」も東北は会員を1,500人でストップすることでコミュニティの価値を追求する道を選んだ。smallだ。でもそれは今、四国や新潟、神奈川から、全国へ少しずつ広がって来ている。
ビジネスとは違い、ソーシャルは規模の経済だけでは動かない。小さく、みんなで。ってこれは百何十年前からガンジーも(そして僕が生まれる前からシューマッハーも)言っていたし、古典的な考えなのかもしれないけれど。
【高齢化という課題】
いま東北復興や地方創生のあたりで、高齢化は間違いなくメインとなる社会課題だ。日本はぶっちぎり世界をリードする高齢国家であり、先進国が同じ道を辿るのは明確な事実。さぞかし注目があるかと思っていたが、全くと言っていいほど誰も気にしていなかったのは驚きだった。
どこかで引き合いに出されていたのはダボス会議における「世界が直面する10の課題2014」。その10とは、経済危機・失業問題・水不足・格差拡大・気候変動・異常気象と自然災害・グローバルガバナンス・食の安全・金融危機・不安定な国際情勢。
そう、高齢化はない。EUも同じような声明を出したらしいんだけど 、やっぱり高齢化はない。今年のものだし直面していないからもちろん当たり前なんだろうけど、改めて日本が特殊な環境にあるということを認識した。
でも逆に言えば、先の震災の意味についてもそうだけれど、日本がここでイノベーティブな事例を生み出し、世界に適切に発信することの価値は高い。少なくとも「ソーシャルセクターのコミュニケーション」を領域とするHUGとしては、今後は海外も見すえてやっていきたいと思った。